ミミッキュ

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"忘れたくても忘れられない"

「っ……!」
 目を覚ますと、がばっ、と反射で上体を起こす。
「はぁ、はぁ、はぁ、…」
 呼吸が荒くなり、思わず胸を掴む。肺が収縮と膨張を激しく繰り返し、心臓も拍動を激しく繰り返している。咄嗟に背後の枕を後ろ手で掴んで抱き締める。枕の柔らかさが恐怖で固くなった心を暖かく包み込んでくれて、呼吸が落ち着いてくる。
「はぁ……」
 落ち着いたので給湯室に行き、棚からマグカップを出して珈琲を淹れる。
「ふぅー、ふぅー…」
 湯気が立ち込める珈琲に息を吹きかけて少し冷まし、マグカップに口を付けて珈琲を飲む。こく、と喉が鳴る。珈琲の苦味と暖かさで心が凪いでいく。
「ほぅ……」
 マグカップの中を覗き込むと、珈琲の表面に自分の顔が写る。とてもじゃないが、誰にも見られたくない程酷い顔をしている。
 真実が分かったとて、あの日を嫌でも思い出す。真実が分かったところで、自分の力不足であぁなったのは変わらない。むしろ、当時の自分の幼さをまざまざと見せつけられた。
 マグカップを持っている手と反対の、空いている手を固く握る。爪が手の平に食い込んで痛みを感じると、頭を降って握っていた手を緩める。
 《今日》という日は二度と来ない。当たり前だが、忘れがちな事。あの日の悔いを思いながら《今日》を生き続けて、最善を選んでここまで来た。あの日の自分も、あれが最善だと思ったから、何もかもを賭けて、動いた。結果あいつの思い通りになってしまったが。
 けれど俺は、この進み方しか知らない。だからこれからも、俺自身がどうなろうとも最善を選んで進んでいく。そしていつか……。
「……」
 こくり、と再び一口飲んで、まだ珈琲がたっぷり入ったマグカップを手に給湯室を出た。

10/17/2023, 11:24:43 AM