作家志望の高校生

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「ねぇねぇ、明日世界滅ぶってなったらさぁ、どうする?」
よくある、陳腐な心理テストみたいな質問。大抵は、家族と過ごすだとか豪遊するだとか、そんな感じの答えになるのだろう。
俺は昔から変な奴とよく言われた。クラスの男子がこぞって外でドッジボールをする中、一人で裏庭に行ってうさぎ小屋の兎と戯れていた。人と接するのが苦手で、反対に動物と接するのが好きだった。
だから、例の質問にも当然のように動物が絡んでくる。
「……さぁ。たぶん猫とか撫でてるんじゃない。」
適当に返したが、案外その通りかもしれない。普段どれだけ無気力に過ごしていても、いざ終わりが来ると怖いだろうから。いつも通りすぎる気ままな猫を見て、落ち着こうとするのはありそうだ。
「え〜?お前ホント動物好きだよなぁ。世界の終わりでも猫かよ。」
愉快そうに笑いながらスマホを見ている目の前の男をちらりと眺める。何故か俺によく絡んでくる、明るくてスポーツができるおバカキャラ。所謂陽キャだ。本当に、何故俺に絡むのか全く理解できない。
「俺なら絶対片っ端から女子に告るわ〜。最後くらい彼女欲しくね?」
また馬鹿なことを言っている。あまりにも男子高校生然としていて、あまりにも下らないからつい笑ってしまった。奴は話すのを止めスマホから目を離して、一瞬呆けたような顔をした。直後、表情筋も音量的にも全てがうるさいくらい全力で不服を示してきたが。
それにうるさいと直接言わないのは、やはり俺もコイツに絆されているのかもしれない。馬鹿ではあるが、愚かではない男だ。何も考えていないようで、無意識なのかこちらが踏み込んでほしくない所には絶対に入ってこない。きっちりと保たれたこちら側のパーソナルスペースギリギリの距離を保つのが上手い奴なのだ。
「……まぁ、でも。……お前なら、一緒に猫撫でてもいいかもね。」
だから、少しだけ素直になってやろうと思った。奴が何故か目を見開いて硬直しているが、気恥ずかしさから俯いた俺の視界には入らない。しばらくの間不自然な沈黙が流れた後、奴の顔がみるみる真っ赤になっていく。ものの数秒で茹でダコのようになったのが面白くてまた笑ってしまったが、俺も恥ずかしくなってきた。顔に熱が集まるのを感じながら、適当に照れ隠しの言い訳を並べる。
「……ほら、お前犬みたいだし。猫と犬揃ってる感じで良くない?」
我ながら意味が分からないが、同じく恥ずかしさで頭が余計馬鹿になったアイツにはこれでも通じたらしい。何故か納得した。
生きている以上、いつかは来る終わり。けれど、コイツと話すこんな下らない日常の中なら、いつ終わりが来てもなんだかんだ笑って終われそうだ、なんて気恥ずかしいことは絶対言えそうに無かった。


テーマ:永遠なんて、ないけれど

9/29/2025, 4:33:21 AM