作家志望の高校生

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「放課後暇?」
「……なんで?」
この手の質問をされる時は、大抵面倒事がついて回る。だから、それを警戒して聞き返した。目の前の男は腹立たしいほど純粋そうな笑顔で、俺の予想していた答えとは全く違った答えを返してきた。
「焼き芋する!」
拍子抜けしてぽかんとする俺をよそに、そいつはニコニコと楽しそうに話を続ける。曰く、知り合いからさつまいもを大量に貰ったらしい。色々と言いたいことはあったが、時期は秋、気温も下がってきて、スーパーの入り口の焼き芋につられる季節になってきていた。ツッコミをしたい使命感と食欲を天秤にかけ、僅差で食欲が買った。やはり三大欲求に入るだけある。
「……何時。」
「このあとすぐやりたい!てか一緒に帰ろ?」
高校生にもなって、保育園児並みの思考回路をしていそうな彼を目の前にしたら、ツッコミだとか世間体だとか、全部馬鹿らしくなってきた。
「……りょーかい。じゃ、校門で待ってて。」
飛び跳ねるあいつを横目に、昼休みの終わりを告げるチャイムを聞いていた。
*
放課後。2人並んで家に帰って、さっさと着替えてまた落ち合う。あいつの手には、確かに食べ切るのに苦労しそうな量のさつまいもが抱えられていた。
「……それ、全部焼くの?」
軽く十本は超えているだろう。2人で食べ切るのは至難の業だ。
「今夜家族も食べるんだって。あと俺の朝ごはん用!」
「……あそ。」
年甲斐もなく落ち葉をかき集め、数十分かけてこんもりとした山を作る。中にはアルミホイルと濡らしたキッチンペーパーで包んだ芋を詰め込んで、火をつけた。
パチパチと弾ける火は、いくつになっても気分が上がる。恥も忘れて少年のように笑い、ふと横を見た。
ゆらゆらと飛んでは消えていく火の粉があいつの目に映って、星の瞬きのように見えた。見惚れてしまった。普段キラキラしている瞳が、初秋の影を孕んで少し翳っている。そこに、真っ赤に燃えたぎった火の粉が揺らめいている。
相変わらず燃え続ける木の葉が爆ぜる音をBGMに、俺は芋で腹が満たされるより先に、心がいっぱいになってしまった。

テーマ:燃える葉

10/7/2025, 7:48:09 AM