「洗濯物干してくる」
「ああ」
いつものようにベランダに向かう背中に、いつものようにPCに向かったまま答えた。
月が変わって最初の休日。
天気はすこぶる良く、絶好の洗濯日和だ。季節の変わり目で増えた洗濯物に同居人はむしろやり甲斐があると言って笑った。
窓から差し込む日差しは確かに暖かい。経理の為にPCに向かう手もかじかむことは無く、集中すればあと一時間ほどで終わるだろう。昼食はどこかに食べに行ってもいいかもしれない。
違和感に気付いたのは、少し経ってからだった。
足音が聞こえない。
洗濯物を広げる音も。
不審に思い、そちらに首を巡らせる。
「――」
真っ青な空。一枚だけ干してある白いバスタオル。
そして·····。
ベランダに手を掛けたまま、長身の背中が微動だにせず立ち尽くしている。言い知れぬ不安を感じて、思わず歩み寄った。
「·····どうした」
「·····」
答えは無い。恐る恐る覗き込むと、同居人は澄み渡る空を見上げながら目尻に涙を浮かべていた。
「ごめん。太陽が·····眩しくて」
ぽつりと力無く落とした声は、それが本当の理由では無いことを伝えている。
眩し過ぎる光。強い輝き。
それは恩恵を与えてくれるが、同時に苛烈に人を責める光でもあった。
「後は私がやっておくから休んでろ」
腕を掴んでなかば強引に部屋に連れていく。薄いレースのカーテンを引いて光を遮ると、もう一度「ごめん」と呟く声と共に同居人はベッドに沈んだ。
後ろめたい事など何も無い。
互いに互いの手を取る道を選んだ。それだけだ。
けれど·····あの眩しく輝く太陽は、罪を暴く炎のように私達を照らし出す。
青い空を睨みつけながら、許されなくても構わないと、そう思った。
END
「太陽の下で」
11/25/2024, 4:30:56 PM