「入道雲ってさぁ、なんか可愛いよね」
山の間から顔を出している雲を眺めながら口にするとそうかぁ?と隣の君が首を傾げた。
「うーん、俺的にはカッコ良いと思うんだよね。入道雲。デカいし質量がある感じ、なんか強そう!」
そう言ってきらきらと笑う君になにそれ〜と笑う私。「もこもこで可愛いじゃん」「いーや、ムキムキで強そう!かっけー!」そんなくだらない事を言い合って、顔を見合わせ吹き出した。
予鈴が鳴り響く空き教室で、もう一度遠くの空に目を向ける。この日常の一コマをあの入道雲が遠い未来に運んでくれる予感がした。
卒業したら上京する君と地元に残る私、共に過ごす最後の夏はまだ始まったばかりだ。
*
あのあと鳴り始めた本鈴に二人慌てて走ったあの日の記憶は、今年もまた入道雲が届けてくれた。
彼は今も入道雲を見て変わらずカッコ良いと感じているのだろうか。
……入道雲にあの日の記憶を見てくれてるだろうか。
私は今あの日の君が何処で何をしているのか知らないけれど、今年こそは何かメッセージを送ってみようか。
入道雲の写真を貼り付けて、今年も入道雲が可愛いよ、なんて。
2023.06.30早朝 「入道雲」#03
6/29/2023, 7:48:15 PM