白糸馨月

Open App

お題『二人ぼっち』

 私は今、初対面の男と二人、向かい合って座っている。ここは場所がいつまでも決まらず、とりあえずテキトーにはいった喫茶店だが、奇跡的にと言えばいいのか、残念ながらと言えばいいのか、客は私と男二人だけだった。
 今日会ったのは、何人目かの結婚相手候補。何人目と言ったのは会いすぎて数えることを放棄したからだ。ここで会話が盛り上がればいいのだが、コーヒーを注文した後、お互いに黙ってしまっている。
 私がなにを喋ろうかと考える。
 休みの日はなにしてるんですか、はアプリで聞き尽くした。趣味はアプリに書いてあることをわざわざ聞くのは失礼にあたる。かといって、じゃあ「貴方は結婚の意志があるんですか?」と聞くといきなりすぎて重い。
 そう考えていると、うつむいていた男がぽつりとこぼした。

「二人ぼっちですね」

 思わず私は吹き出した。男はあきらかに狼狽した様子でぼそぼそ「すみません」と頭を下げた後、視線を泳がせている。

「あ、いえ。こちらこそすみません。二人ぼっちってワードにツボってしまって」
「はぁ」
「二人ぼっちっていうと、もっとドラマチックな雰囲気を想像するじゃないですか。無人島に漂着した男女とか、二人だけの結婚式とか!」
「そうなんですか」
「ま、これは私の意見なんですけどね」

 そこからまた沈黙が再会する。男が無言でコーヒーをすする音だけを聞きながら、私は『今日もだめか』とすこし落ち込んだ。

3/22/2024, 4:29:57 AM