『はぁ…』
隣を歩く君は口元をマフラーに埋め、短く息を吐く。チラッと覗く鼻は赤く染まっていた。
『やっぱ寒いねぇ〜』
のんびりとした口調で話す君に、僕は白い息を吐いて同調する。
今僕らは近くの神社へ初詣に向かっていた。
せっかく一緒に年を越したんだから、と半ば強引に連れられ外に出てみたが、冬の夜の空気はとても冷たい。
都会から離れたこの場所は車通りが少なく、驚くほど静かだ。気を抜いたら暗闇に飲み込まれてしまいそうなくらい。それでもお喋り上手な君の柔らかい言葉によって、この暗闇も明るく照らされている様な気がする。口下手な僕はただ相槌をうつことしかできなくて、それがとても申し訳ない。当の本人は気にする様子もなく、次から次へと言葉を紡いでいるが、それでも口数が徐々に減ってきている。
いつもありがとう
ふと口から零れた言葉。僕の本音。
君は目をまん丸くして数回瞬きを繰り返す。
そんなに驚かれるとは思っていなかった。
数秒の沈黙。あぁ、暗闇が僕を飲み込んでいく。そう思った時、やっと君は口を開いて
『私こそ、いつも話聞いてくれてありがとう』
お礼を言ったはずがお礼で返されてしまった。
『君のことだからさ、私にばっか話させちゃってごめん〜とか気を遣わせてるって思ってるんだろうけど』
僕の心をそのまま読みあげられたようで少し恥ずかしくなり目を背ける。
『私からしたら君の”それ”は優しさでしかないんだよ。ほら、私って話してないと落ち着かないからさ〜』
僕の口下手が、ずっと気にしていた”これ”が、
君にとっては優しさに変換されている。
その言葉に心が洗われた。温かくなった。
『ねぇ、どうしたの〜?早くいこ?』
いつの間にか立ち止まっていた僕。
間には少しの距離が生まれていた。
その距離を埋めるように、駆け足で笑いながら戻ってくる君。
その微笑みは春の木漏れ日のようで。
心だけでなく、冷えた身体まで温かくなったようなきがした。
なんでもないよ
僕はそう呟きながら君の手を握る。
早すぎる満開の桜が咲いたような笑顔。
今年も隣で君の笑顔が見れますように。
やっぱり僕は君と一緒に歩きたい。
#君と一緒に
1/6/2024, 1:36:57 PM