終花

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『涙の理由』

涙の理由は、夏が消え去ったから。
涙の理由は、枯草が音を立て始めたから。
涙の理由は、桜の葉が色付き始めたから。
涙の理由は、空にフィルターが掛かったから。


私の夏は、泣いてしまう程に美しいものだった。

例えば水草の揺らぐ水面を眺め歩いたあの日。
つーっと頬を伝う汗を拭い、ふと上を向き陽の光に目を細める。石塊を蹴飛ばし、アスファルトの上、小気味良い音と共に行く先を見守った。

例えば緊張と絆がブレンドされた空気を吸ったあの日。
熱気を放つ白い光の下、視界いっぱいに広がる観客の目線に高揚感。一心不乱に動く指、息遣いと共に流れ行く音に自然と顔が綻んだ。

例えば窓枠の向こうに茜から東雲を見たあの日。
麦茶を一口飲み込み、蝉と風の声、葉の騒めきなどを聴きながら一人言葉を紡ぐ。美しい言葉に絆され、夕陽と朝陽に捕らわれた。


私の夏は、笑ってしまう程に不粋な終わりを迎えた。

病葉。


涙の理由は、夏が消え去ったから。
涙の理由は、瑞々しさの終わりが見えたから。
涙の理由は、秋が見られないから。
涙の理由は、死にたくないと願うから。

10/10/2023, 12:30:36 PM