【ミッドナイト】
海の波音だけが静かにたゆたう真夜中の暗闇。都会にいた頃は夜でもネオンの光が鮮やかに瞬いて、人々の騒めきがいつだってうるさく響いていたのに、まるで別の世界にでも来てしまったようだ。
物語に描かれるミッドナイトラジオの何とも言えないノスタルジーは、きっとこういう世界で描かれるものなのだろう。少なくとも喧騒に包まれた大都会の夜では、ラジオを流したところで風情も何もあったものじゃない。
隣では君がすうすうと穏やかな寝息を立てている。いつも何かに怯えるように身を丸めて浅い眠りについていた君が、健やかな寝顔を見せてくれていることに安堵した。この海辺の町に半ば強引に君を連れて越してきたことは、間違いじゃなかったみたいだ。
「ゆっくり寝てね」
窓の向こうから響く波の音に紛れるように囁いて、私は君の額にそっと口づけを落とした。
1/27/2024, 2:37:22 AM