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148.『夢が醒める前に』『ふたりぼっち』『ばかみたい』


【前回のあらすじ】

 期末試験で赤点を取ってしまった百合子。
 追試で合格できなければ、『春休みは返上』と教師に宣告されてしまう。

 それを聞いた友人の沙都子は『入試を突破出来たのはおかしい』と馬鹿にするが、百合子は『評判のいい学食のために頑張った』と言い返す。
 それを盗み聞きしていた教師は、百合子を追い込むため『追試に落ちたら学食禁止』を告げ――るのではなく、『成績優秀者のみが食べられる裏メニューの存在』について示唆する。
 しかし、教師は『だがお前には無理だ』と断言し、沙都子からも『信じている』と言いつつ1ミリも信じてない態度を受けて、百合子は憤慨する。
 そして、『絶対に裏メニューを食べる』と決意を固める百合子だった。


 ☆

 あれから1週間、私は運命の日を迎えた。
 今日の追試の結果如何で、春休みの予定が決まる。
 短い春休みと言えど、休日を補習に捧げる気は全くない。
 休みを満喫するため、そして華のJK生活を謳歌するためにも、絶対に負けられない戦いだった。

 それに頑張る理由はもう一つある。
 それは成績優秀者のみが食べることができる、学食の裏メニュー。
 沙都子は絶対に無理だと思っているだろうが、私は絶対に食べてやると誓っていた。

 けれども私は赤点常習者。
 普通に勉強しても、テストで9割取るのは難しい……
 だが私には秘策があった。

(カンニングペーパーを作って来たもんね)
 これを見れば、百点間違いなし!
 好きなゲームを我慢して作った、自慢のカンニングペーパー。
 突然いい点数を取れば怪しまれるだろうけど、『裏メニューのために頑張った』と言えば問題ない。
 そもそも先生から焚き付けてきたんだから仕方ないね。

 もちろんカンニングを警戒されるだろう。
 でも先生だって人間だ。
 必ず隙はある。
 その時を狙ってカンペを見ればいい。
 楽勝だね。

 気持ちを落ち着かせながら精神統一をしていると、先生が時計を気にし始めた。
「そろそろ時間だな、準備しろ。
 …………始め!」

 テストは始まった。
 すぐに、じっと私を見つめる先生。
 そんなに見つめたって、ボロは出さないぜ?
 ほら、諦めて、早く隙を見せるんだ。

 そうすればカンペを見て、鮮やかに問題を解いて見せるぜ。
 そう、成績優秀者のように!
 だから早く隙を見せて……
 早く…… 隙を見せ…… て……

 ………
 ………………
 ……………………えっ、めっちゃ見てくる!?

 先生が見てくる。
 暇なカレー屋の店主の様に、じっと見てくる

 なんで!?
 私まだ何もしてないよ。
 私がカンニングすると疑っても、さすがに見過ぎでは……

 はっ!
 今重大なことに気づいた。
 こんな単純なことに、なんで早く気付かなかったのだろうか。
 こんな単純なことに気づかないなんて……


 ――この追試、私しか受けてない。

 この教室にいるのは先生と私。
 つまり、ふたりぼっち……
 先生は、私以外に見るべき人間はいない。
 当然の帰結だった。

(なんという計算外……)
 勉強はしていない。
 カンペ製作に費やしてしまったからだ。
 そうとも知らず、製作に時間を費やして、ばかみたい。

 こうなったら別の方法で、先生の目線をそらすしかない。
 私はさりげなさを装って、机から消しゴムを落とした。

「あの、先生……
 見られていると、緊張するんですけど……」
「気にするな。
 集中していれば、すぐに気にならなくなる」
「でも……」
「仕方ない。
 三分だけ後ろ向いているから、その間に周りが見えなくなるくらい集中しろ」
 と言って、黒板の方を向いた。

 なんという優しさ。
 私に追試を命じた人と、同じ人物とはとても思えないね。
 とはいえ、助かったのは事実。
 心の中で感謝する。

 でもそれは一瞬だけ。
 三分は長いようでいて短い。
 すぐにカンペを見て、出来るだけ問題を解かないと……

 ――おや、カンペが無い。
 ポケットをまさぐったりするが、カンペが無い。
 どこかに落としてしまったか!?
 そう思って教室を見渡す。
 とその時、廊下に沙都子が教室を覗いているのを見つけた。

(何しに来たんだろう)
 もしかして応援?
 普段は私を馬鹿にする沙都子だけど、なんだかんだで親友思いなんだな……

 そう思っていると、なにやら紙のような物を取り出して――って、おい!
 沙都子が持っている紙、あれは私のカンペじゃないか!
 いつの間にすられたんだ。
 道理でどこにも無いわけだよ!

 じっと目を凝らしても、距離があるので全く読めない。
 私が歯噛みしていると、沙都子が「バーカ」と口を動かして去っていった。
 いや、本当に何をにした?
 ただ私をバカにしに来ただけか!?

「五分経った。
 あとは慣れろ」
 そして先生はじっと見てきた。
 暇なカレー屋の店主の様に……

「くっ」
 沙都子の悪質なイタズラにより、カンペが無くなってしまった。
 あとはもう実力だけでやるしかない。
 けれど、私の脳みそでは九十点どころか合格すら怪しい。

 それでも、必死に足掻いてみよう。
 九十点には届かないかもしれないけれど、部分点を重ねて行けば合格ラインまでに届くかもしれない。
 そう思い、テスト用紙に目を落とした。

『問一、7×8=?』
 私はゆっくり瞬きした後、問題が変わらないことを確認してから、顔を上げた。

「掛け算とか舐めてんのか!」
 私の魂の叫びをあげる先生はまったく表情を変えずに言った。

「先日、教師陣で話し合った結果だ。
 今までの態度や点数から、小学生の学力すら怪しいという結論になってな。
 まずその確認のテストだ」
「掛け算くらい出来るわい!」
「なら良かったな。
 90点以上取れば、裏メニューが食べれるぞ」

 まったく表情の読めない声で、淡々と告げる先生。
 悔しいやら悲しいやら。
 舐められているのは分かっているのに言い返せない。
 だって私、裏メニューを食べたいんだもの……

「掛け算とはいえ、油断するなよ。
 一ケタ同士のものから、5ケタ以上の計算まで。
 掛け算だけだと飽きるから割り算も入れて、あらゆるバリエーションを取り揃えている。
 楽しんで解くといい」


 📜📜📜📜📜📜📜

「追試突破おめでとー」
 目の前で、憎き沙都子が満面の笑みを浮かべながら拍手する。
 まるで『百合子の事、信じていたわ』と言う顔をしているが信じてはいけない。
 やつはカンペを持ち去った裏切り者である。

「何浮かない顔してるのよ。
 念願の裏メニューが食べられるんだから、もっと嬉しそうにしなさいよ」
 実際のところ、私はテストで9割以上取った。
 カンペではなく、純粋な私の実力によって。

 その結果、裏メニューのチョコレートケーキが目の前に置かれていた。
 でもなぜだろう、全然嬉しくない。

「なんで落ち込んでいるのよ!
 先生が『まさか百点取るなんて思わなかった』って驚いていたわ」
「掛け算ばかりだからだよ。
 小学生でも取れるよ」
「え?
 もしかして本当に気づいていないの!?」
 沙都子が目を丸くして驚く。
 私も、沙都子が驚いたことに驚く。

「たしかにほとんど簡単な計算だったわよ。
 でも、最後の方は先生がふざけて、平方根の√とか複素数iとか出して、極めつけは対数logの計算とか出てきてたのよ。
 もっと後で習うことなのに、なんで解けるの!?」
「ちょっと何言ってるか分かんない」
「何で分からないのよ!?」

 沙都子がツバを飛ばしながら叫ぶ。
 何をそんなに興奮しているのだろうか?
 ただの掛け算なのに。

「アナタはね、人によっては挫折するレベルの計算を、いとも簡単に解いて見せたの。
 誇りなさい」
 沙都子には珍しい素直な賞賛に、体がむず痒くなる。
 明日は槍でも降るのかな?

「よく分かんないけど……
 実は私、天才だってこと?」
「先生たちも、それに関して悩んでいたわ。
 学校一の問題児か、有史以来の天才か……
 どちらにせよ、あんまり先生を困らせるのはやめなさいね」
 正直な話、沙都子の言っている事は分からない。
 けれど『実は頭がいい』なんて言われたら、ちょっとだけ嬉しい。

「まあ、これからは勉強を真面目にすることね。
 才能があっても、それを磨く努力をしなければ宝の持ち腐れよ。
 食べ物絡みだけの才能かも知れないけれど、大切にすべきだわ」
(勉強の才能か……)

 生まれてこの方、そんな事考えたこともなかった。
 今まで自分には才能がないと、勉強せずにゲームばかりをしていた。
 頑張ったのは、入学試験くらい。
 けれど、沙都子から認められるくらいには、自分には才能があるらしい。
 本当かは分からない。
 でも、これからは少しだけ勉強を頑張ってみるのもいいかもしれない。
 そう思った。

「ほら、早くそのケーキ食べなさい。
 アナタ、それが食べたくて頑張ったんでしょう。」
 そうだ!
 なにはともあれ、これが食べたくて勉強を頑張ったのだ。
 勉強の才能とか、難しい話は後!
 これを食べたら、私は春休みを謳歌して――

「言い忘れてたけど、先生からの伝言。
 補習は無しだけど、宿題出すってさ」
「夢が醒める前に、現実に引き戻さないでくれる?」
「全部やったら、来年からの新メニューを最初に食べさせてくれるって」

 ……頑張るか。

3/29/2026, 8:43:55 AM