星乃 砂

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【朝日の温もり】

 [5/19 恋物語
 [5/26 降り止まない雨
 [5/27 月に願いを
 [5/28 天国と地獄
 [5/30 ごめんね
 [6/5 狭い部屋
 [6/7 最悪
 [6/9 岐路
           続編

登場人物
 鬼龍院加寿磨
    (きりゅういんかずま)
   ユカリ (母)
    加寿豊(かずとよ 父)
 犬飼藤吉
     (いぬかいとうきち)
   宗介    (そうすけ)
   親兵衛   (しんべい)
 倉橋智樹 (くらはしともき)
 相沢恵子 (あいざわけいこ)


母は実家に戻ってから5日後の日曜日に、相手の男性と会うことになった。
僕は春から高校に通えるように手配してくれるそうだ。
「母さんどうするつもりなの?」
僕は率直に聞いてみた。
「母さんは今でもお父さんの事が好きよ。でも、相手の人と結婚しなければ、会社の人達がみんな職を失ってしまうわ」
確かにその通りだ。母さんの気持ち次第で、数十人の社員・数百人の家族が路頭に迷うことになる。
「でも、母さんが犠牲になることはないよ」
「ありがとう加寿磨さん」
次の日、母と家の周りを見て周ることにした。ここには駄菓子屋があったとか、この橋は人ひとり通るのがやっとだったなど教えてくれた。だいぶ変わってしまった街並みを見て、時の流れを実感しているようだ。
僕が通う高校にも行ってみた。
そこは、母も通っていた学校だった。
「懐かしいわ、あの古い校舎で母さんたちは勉強してたのよ」
すると、
「犬塚、犬塚じゃないか?」と声をかけられた。
「えっ?」
「俺だよ俺、倉橋智樹だよ」
「あの、泣き虫だった倉橋君」
「そうだよ、懐かしいな、いつ帰って来たんだ」
「一昨日着いたの、紹介するはひとり息子の加寿磨よ」
「初めまして鬼龍院加寿磨です」
「初めまして、僕はお母さんとこの高校で一緒だった倉橋です。よろしく」
「倉橋君とは、小学校から一緒だったのよ」
「いつまで、居られるんだ?」
「ううん、実家に帰って来たの」
「そうなんだ、今晩空いてる?みんな集めるから一緒に飲もう」
「うん、ありがとう。倉橋君はどうしてここにいるの?」
「俺、この高校で先生してるんだ」
「そうなの、4月から加寿磨が通うのでよろしくね」
「そうか、改めてよろしくな」
その夜、ユカリは地元の友達と思い出話に花を咲かせた」
平日ということもあって、早めのお開きとなった。
「ユカリ、私の家でもう少し話せる?あんた、なんか隠してるでしょ」
そう言ってきたのは親友の恵子だった。
「やっぱり恵子には分かっちゃったか」
「当たり前でしょ」
こうしてユカリは、全てを打ち明けた。
「なるほどね、苦労してきたんだね。そしてまた、一苦労か。私に出来る事ならなんでも協力するから、遠慮なく言いなさいよ」
「ありがとう、私ひとりで心細かったの」
「あんたはひとりじゃない、私や仲間がいるんだから、もっと頼りなさい」
ふたりの話しは尽きる事なく朝まで続いた。
ユカリは親友と共に朝日を見ながら暖かい温もりに包まれていた。

           つづく

6/9/2024, 11:31:57 PM