茜色

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「私、浩介と付き合うことになった」
いつもの快活な笑顔で、美雪は私にそう言った。
「そうなんだ!おめでとう」
痛む胸を抑えて、心から祝福しているように見せる。
「ありがとう!親友の秋菜には一番に言おうと思ってたんだ」
私を親友と言ってくれる美雪。
その瞳には一切の曇りはなく、張りのある声と笑顔はまるで青空のよう。
美雪はいつも明るくて、さっぱりしていて、漢気があって、かっこいいという言葉が似合う女性だ。
どこかふにゃふにゃしていて、芯のない弱い私とは大違い。
私達の幼馴染である浩介が好きになるのも当然だろう。

そこからずっと、美雪と浩介の話をした。
美雪は惚気るようなことはしなかったけど、言葉の端々に幸せと浩介への愛情が滲んでいて、話せば話すほど私は苦しくなっていった。
「ごめん、明日仕事早くて。そろそろお開きにしてもいいかな」
たまらずそう言うと、
「あ、ごめんね。秋菜と話すのは楽しいから、本当にあっという間に時間が過ぎちゃうね」
少し残念そうに美雪が呟く。
「そうだね。次会う時もまた女子会しようね!」
「当然!浩介には内緒ね!」
悪戯っ子のように笑う美雪は、まるで幼い少女のようだった。

その後店を出て、別れを告げる時、美雪に手を握られた。
ビクッとした私に気づかなかったのか、今日はありがとう!またね!と言って手を離し、私と反対方向へ歩いていった美雪。
少しだけ美雪を見送って、帰り道を歩き始めた私。

なんで、なんで、私じゃないの。
握られた手の温もりが、今は寂しくて哀しい。
美雪のお礼の一つ一つが、褒め言葉が、笑顔が、私の心を締め付ける。
あんなに愛情を注いだのに、全然気づいてもらえないまま、浩介が、美雪を選んでしまった。
なぜ、なぜ、なぜ。
連れて行かないでほしかった。
「大好きなのに…美雪…」

浩介を恨みたくても、あんなに幸せそうな美雪を見たら恨むことすらできない。
今までで一番の、快晴の空のような笑顔を見せる美雪。
話を聞きながら、心が土砂降りの雨に降られたようにずぶ濡れになり、震える私。
もう、今日みたいな思いはこりごりだ。

それでも、私はまた美雪に会うだろう。
美雪の笑顔を忘れられないから。

もしかしたら美雪が私に振り向いてくれたりしないかな、そんな微かな期待で自分を慰めつつ、私は家路を急いだ。





テーマ『ところにより雨』

3/24/2024, 12:06:25 PM