子供が手を伸ばしている。
棚の上のおもちゃを取りたいらしい。
しかし、あのくらいの子が、自力で取れる高さではなさそうだ。
棚は背が高い。
子供よりずっと。
絶対に届かないだろう。
届かないのに、諦め悪く、子供は手を伸ばし続けている。
届かないのに。
水っぽいアイスコーヒーを一口、飲んだ。
子供はまだ手を伸ばし続けていて、その保護者らしい大人はスマホを熱心に見つめていた。
ショッピングモールは騒がしかった。
ここ、ショッピングを待つ子供と親が過ごすための、ふたばスペースだかの、子供用遊戯スペースは、特に騒がしかった。
我が意を得たり、とばかりに、遊戯スペースの隅から隅まで走り回る子供。
他の子供と喧嘩をして、半泣きで言い合う子供。
おもちゃを乱暴に投げ捨てる子供。
大人に付き合わされている休日の鬱憤ばらしに、思い思いの形で好き勝手している子供たちは、本当に騒がしい。
騒がしい。
しかし、その騒がしさは、私には手が届かない。
あの、棚の上のおもちゃに手を伸ばし続けている子供のように。
私はいくら頑張っても、目の前で繰り広げられるこの騒がしさに手を届かせることはできないのだった。
ショッピングモールへは、買い物に来たのではなかった。
涼みに来たのだ。
その日を暮すのもやっとな日銭しか持たない私のような人間は、炎天下の今日のような日は、せめて入場にはお金のかからない施設にどうにか潜り込んで、ぼんやりと1日1日をやり過ごすしかないのだった。
だから、ここへ来た。
ここには、買い物にくたびれて、ただぼんやりとツレを待つ人が集まる。
じっとしていても、スマホを熱心にいじっていても、不審に思われないのだった。
私は、ぼんやりと、遊び続ける子供たちを眺めた。
金切り声をあげ、はしゃぎ、それでも周りの煩雑な騒がしさから、咎められることもなく、休日の鬱憤を晴らし続ける子供たちを。
アイスコーヒーを一口飲んだ。
氷が溶けてしまったからか、やけに薄く、そして微かに苦かった。
あの子供はまだ、棚の上に向かって手を伸ばし続けていた。
届かないのに。
6/17/2025, 10:49:02 PM