終わらない問い
答えのない問いというものに、人間はどうも答えを示したくなる。それは、好奇心によるものか、そういう使命が何処かにあるのかは、分からない。
その問いに答えようとし、解を探していくうちに、新しい問いが出てくる。
その時、人々は終わらない問いと言うのだろう。
限りなく哲学的なその循環は、自分との対話のみでしか解決することは出来ない。そう、勝手に思っている。
気がつくと、朝になっていたようで、昨日は考えながら寝てしまったらしい。
急いで筆を洗い、外へと向かう。そこには、血だらけの左之助が居た。
「おい、左之助?……起きろ…!」
身体を優しく揺するも、一向に起きる気配のない左之助に、動揺を隠せなくなった。
何故血塗れなのか、何故誰も手当もしていないのか、何処で何をしていたのか、俺には理解ができなかった。
「……っ、」
「左之助!」
目をゆっくりと開ける左之助を見て、思わず大声を上げてしまった。
「齋藤……?」
「お前、大丈夫か……?血だらけ、だぞ……」
本人よりも焦って訊くと、左之助は無理やり笑ってみせた。
しかし、自ら立ち上がろうとしている左之助は、手に力が入らないようで、すぐにバランスが崩れてしまった。
手を貸して立たせると、息が荒かった。
「俺、やらかしちまってよ……はぁ、」
そう言う左之助は、何処か冷静だった。
一方で俺は、知らないうちに左之助が死ぬかもしれなかったという不安と恐怖に駆られていた。
「そうか。……無事なら、なんでもいい」
医務室に向かい、止血をし、血を拭う。左之助が出来ると言っているのに、衝動的に全ての治療を行ってしまった。
きっと目が泳いでいたのだろう。下を向いて左之助を見ないようにしていたのに、どうも落ち着かなかった。
不意に、頬を掴まれて顔を上げられた。左之助の顔を見ると、安心できた。
「齋藤、大丈夫か?」
「俺は大丈夫だ……左之助も、重傷じゃなくて良かった」
「おう、そうだな」
俺を安心させてくれるように、左之助はいつもの表情で笑う。
心配しなければいけないのに、逆に心配されている現状に、自分の弱さを感じた。
左之助は、頬に貼ってある綿紗を手のひらで覆いながら、胡座をかいた。医務室から見える木を見ながら、俺に話しかける。
「……なあ、どうして、争いは無くならないと思う?」
終わらない問い。答えを探そうとすると、きっと争いがまた始まってしまう。
そういう問いには、一つだけ答えに近づくための答えが存在するのを、俺は知っている。
「人々が、左之助のようにその問いについて考えるからだ」
皮肉のつもりで言った訳では無いが、そう聞こえる言い方になってしまった。
いつもなら言い返してくるのに、今回は言い返してこなかった。ただ、木だけを見ていた。
「なるほどな。……分かんねえなぁ、人間ってのは」
今の戦いは、何故起こっているのか分からずに戦っている人もいるはずだ。
循環していくうちに、問いというものは原型を収めなくなる。
左之助は横目で俺を見つめる。その顔は、志があった。
「齋藤」
「……」
「お前は、こんな世界に飲まれんなよ。さっき俺のことを心配してくれたように、純粋に、生きろ」
気づいたら、下を向いていた。
流したことのない涙が、目から流れ落ちてくる。
「俺は……、どうすればいい」
「ずっと、考えるんだ。終わらない問いを。考えて、考えて、答えが出るまで生きれば、俺はそれでいい」
左之助はきっと、先程の問いのように、答えのない問いを考え続けて現実から目を離しているのだろう。
現実を直視するのが、難しくなってきたこの時代は、狭苦しく感じた。
10/26/2025, 12:43:28 PM