【上手くいかなくたっていい】
「誰だって、最初はみんな上手く行くって思うもんなんですよ。サッカーだって、算数のテストだって、なんの努力も準備もしてなくても"きっと上手くいく"って。僕は多分大丈夫って。大輔さんはそう思いませんか?」
最近よく一緒になる津田はそう言った。
(まったく、こんなギリギリの状態でよく言えたもんだ。)
無言を返事として、髪を揺らしながら、とにかく足を動かしていた。
こんな時にあっけらかんとした津田を尊敬すらする。
「あそこを登って、一旦状況を確認しよう」
追跡者は3人。まだ増える可能性もある。さて、どうしたものか。
「津田。お前の"大輔さんに付いていきます"は、それは物理的に、なのか?」
「僕はずっと大輔さんに付いていきますよ!大輔さんといると勝てないものも勝てそうなんですよね。」
気付けば追跡者は4人。そろそろ限界が近づいている。
「とにかく一旦ここから離れよう。追跡者の意識を分散させるために、ここからはバラバラだぞ。いいな?」
津田は満面の笑みでこちらを見つめている。
後ろから津田を感じる。
まったく…。やはりこいつはわかってない。
「津田!あそこを登って逃げろ!」
足を動かす速度を緩め、横を駆け抜けていく津田の背中を見ながら、追跡者の手が肩に触れた。
「大輔くん、タッチィー」
ここからは、俺も鬼。
追う者としてまた物語が始まる。
上手くいかない側にも物語は存在する。
"上手くいかなくたって、いい"
8/9/2024, 9:28:23 PM