目を開けると、私はカーテンで仕切られたシャワールームの中にいた。鎖骨にかけてシャワーの水が私の方へとやや緩やかな弧を描いて流れている。私の長い黒髪は濡れてオールバックのように前髪は後ろに流れていた。視線を下に落とすと、薄桃色の膝下まであるキャミスリップはぴったりと私の身体に張り付いて、少し気持ち悪かった。何気なく手の内側を見た。いつも通りの骨貼った私の手は、薄暗く青白い室内の蛍光灯に照らされていつもよりもさらに白く見えていた。わずか1畳ほどに仕切られたカーテンの色味や、排水溝とその周りのタイルの色が薄緑や青みがかった色であったことから、どことなく病院や手術室を連想した。
どうしてこんなところにいるんだろう、と、重く稼働しない脳みそを働かせてみた。が、やっぱりうまく考えられず、床下の排水溝だけをぼーっと眺めていた。
すると、左側からうっすらと人の気配がした。
人がいる。さっきまで全く感じなかった人の気配が、一枚薄く隔てたカーテンの先に感じる。すると、直前までシャワーの音すら意識していなかったのに、まるで聴覚を新しく備え付けられたように隣の人物の声が聞こえた。はっきりとはその内容を確認することができなかったが、女であることはわかった。
私は、心拍数を跳ね上がらせながら、そして不思議と抵抗はなく、そのシャワーカーテンを移動させた。そこにいたのは、40代くらいの髪をお団子に低くまとめた女だった。化粧はしていなかった。無地の長袖を肘まで巻くしあげて、膝下までのスカートを履いていた。足は裸足だった。そして、奇妙なことに、右手に大きな布の袋をぶら下げていた。布は、シャワーとは別の何かによって色濃く濡れていた。私は、それがなんなのか尋ねずとも、理解した。不思議と、それはヒトの臓器であることを、理解していた。
私は、カタカタと指先が小刻みに震わせていた。だんだんと手足の先からずーっと血の気が引いてきて、体の芯まで冷めていくような感覚になる。そして内側から振動のように震えがやってきて、やがてそれは唇に伝わっていった。
女は、まるでビジネスかのような口ぶりで話しながら、顔色ひとつ変えず私に近づいてきた。
「だんだん、楽になります。汚さず、綺麗なままです。色も、つきません。最後まで、清潔で、終わります。」
女は、スカートのポケットから小さな針を取り出した。そして、それを私の首元にチクリと刺した。
私は、たったそれだけで死ぬはずのない針だと視覚で捉えながら、必ず私は死ぬのだということがわかった。そして、目には見えないが、チクリと刺した首の穴から、すーっと血が流れていくのを感じていた。きっとこの穴は塞がらない。血は止まらない。この血が限度までたどり着いたときが自分の終わりなのだ。
私はこれから迫る死への恐怖をただただ感じていた。気がつくと、女はどこかへ消えていなくなっていた。先ほどまであった複数にも仕切られていたシャワールームは一部屋しかなくなり、シャワーの水も止まっていた。
私はシャワールームを飛び出して、服を着替えた。何度も何度も首元を触った。たった小さな数ミリの穴なのに、ベッタリと両手に真っ赤な血がついていた。
それなのに、白いアウターには一滴の血もついていなかった。なんとなく死ぬことがわかっていて、それを恐れているのに、私は頭の中で自分の服が汚れないか、大学のゼミの課題のことばかり考えていた。
という夢を見た。今日。
めちゃくちゃ目覚め悪い夢だったー。
9/10/2025, 3:17:09 PM