ノンネム

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 大切な友達が、目の前で横たわっていた。
 雨の中、わざわざ水たまりの中へ放られたかのように。
 大切だった友達が、ボロボロの体で捨てられていた。


 なんで? どうして、こんなことを。

 湧き上がる憎しみの熱も、雨に打たれてすぐ冷える。
 つめたい雨水が体を伝い、指先はブルブルと震えるほどに凍えだした。

 なぜこんなことに。
 私のいない間に、なにがあったの。
 誰がやった。一体、誰が。
 こんなこと本人が望むわけないのに。
 悪意がなきゃ、こんなことにはならないはずなのに。
 それなのに。


 友達に一歩、近づく。
 友達は動かない。
 その目にはなにも映していない。

 表情はずっと無感情のままだった。
 もう、笑ってくれないんだと悟った。


「あえ……」

 呂律が回らない私の脚が、言うことをきかない。
 あと一歩、もう一歩進めば、友達の頬に触れられる。
 その顔を、温められるのに。


「なんでぇ」

 泣きそうに疑問を口にして、気づく。

 私が目を逸らしている事実。
 ……もう会えないんだっていう、現実に。


 うそだ、そんなのありえない、そうでしょ?

 何度そう思っても、友達に近寄りたくても、脚が動かない。
 そんな自分がいることを、信じたくない。認められない。
 けれども私は、一歩を進めないままだ。

 この一歩を踏み出せば、泣き崩れてしまうから。
 そしたらきっと友達はひどく悲しむ。
 友達が悲しむ理由を、知っていたから。

 あと一歩だけが足りない。



【もう一歩だけ、】

8/26/2025, 7:41:35 AM