恥に塗れたときの罪悪感だけが僕の隣人だった。
初めてその横顔を見たときに僕は、彼女はなんて哀れな人だろうかと思った。彼女なら僕のためにエレベーターを止めてくれると思ったからだ。
少し埃っぽくて小さな箱の中で顔を見合わせてしばらく、いやほんの間だけ止まって、彼女は髪を耳にかけるだろう。照れているわけでもなくその子の美意識からだと思う。少しでも人に綺麗な姿を見せていたいんだ、道を歩く女学生が人とすれ違う前に前髪を直すでしょう、それってね不細工な人の前ではやらないんだってね、、、。僕は何を言うでもなくそっと前に向き直り、六階のランプがすでに点灯していることを確認する。静かに上昇し始めたエレベーターの中で彼女は驚くだろう。僕はそんな妄想を済ませてから、非常階段を使った。登っていくうちに、もし今から急いで彼女に追いついたら運命だと思った。ハアハアと切れる息と力が抜けていく膝よりも胸の高鳴りが僕を後押しした。六階につきそうになって、慌てて呼吸を整えた。多分口を閉じたぶん鼻の穴が広がっていたけど、きっと彼女は目が悪いからそこまでわからないだろうな、自然とそう思った。
六階に到着した時エレベーターは鳴らなかった。足音ひとつしなかった。僕はまた妄想を終え、黙ってエレベーターで降りていった。
「ささやかな約束」
11/14/2025, 7:31:29 PM