窓越しに見えるのは、いつもと変わらない景色。
いつもと変わらない、なんの争いもない、穏やかで満たされた日々。
それが当たり前だと思い、今までなんの疑問も感じなかった。
それは、些細なことだった。
いつもと変わらない景色の中、いつもと変わらない人や車の波。
その中に、じっとこちらを見つめる一人の少年を見つけた。
どこか見覚えのある少年は、ずっとこちらに語りかけているようだ。
何だろう?と思い体を動かそうとするが、なぜか体が動かない。
気が付くと自分の手足には鎖が繋がれていた。
えっ、と声を出そうとしても、何故か声が出ない。
気が付くと自分の口元にはマスクのようなものが付けられていた。
徐々に意識が覚醒していく感覚があったのと同時に、突然視界が真っ白になり、眩しさのあまり目を眩ませた。
目を閉じ、視界が塞がれながらも、意識は次第にはっきりとしていく。
周りでは慌ただしく動き回る人の声や物音が聞こえる。
そう思っていると、自分に話かけていると思われる女性の声が聞こえてきた。
「--さん、--さん、聞こえますか?聞こえたら目で合図して下さい」
女性の叫ぶような慌ただしい声に、何事かと思ったが、その言葉に促され目を瞬きさせると、女性がまた、大きな声で話し始めた。
「先生、先生!--さん、意識覚醒しました!!」
うるさいな、と思いつつ身じろごうとするが、やはり体は動かないままだ。
「やりましたね、意識を別の生物に移す研究、ついに成功です!」
...意識を、別の生物に?
この女性は一体、何を言っているんだ?
そう思っていると、徐々に目の眩みが落ち着き、視界が開けてくる。
眼前に見えたのは一人の若い女性と、傍らでこちらを観察する初老の女性。
そして、目の前にあった鏡には、自分の体と思われる、毛深いそれはまるでゴリラのような自分の姿が映し出されていた。
7/1/2023, 3:37:39 PM