三三三

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雨粒が窓の淵をつたう。そのまま重力に逆らわず滴となって地面に落ちた。
「雨、やまないねえ……」
「そうだな」
急に降り出した雨に私たちは慌てて軒先へ駆け込んだ。
私を最寄駅へ送るだけだったためか、普段なら用意周到なキミも傘を持っていないようだった。
さっきまであんなに晴れていたのに、と思いながら濡れた服を少しでも乾かそうとハンカチを取り出す。
「あ」
「?」
濡れた服を不快そうに拭きながらキミは私の方を向く。
「ごめん、このハンカチってキミのだよね?」
そう言いながら鞄に入っていたハンカチを取り出す。以前、私がびしょ濡れで教室にきたとき貸してくれたものだ。返そうと思いながらタイミングを逃していたものだった。今日、キミの家へ遊びに行くからと忘れないように鞄に入れておいたのだ。
「あー……確かに僕のだ」
「ずっと渡せなくてごめん。変なタイミングだけれど返すよ」
ハンカチを差し出した私に、キミは少し考える素振りを見せた。
「いや、今日はいいよ。また後で返してくれ」
「?なんで」
「君、それしかハンカチ持ってないだろう」
指摘されて鞄を覗けば確かにハンカチはこの一枚しかない。ときたま、キミには全てを見通されてると思ってしまうことがある。
うん、と頷けばキミは、そうだろうと返す。
「今日もそれ使っていいから」
「……うん」
ごめんね、と言いながらハンカチで体を拭く。降り出してからすぐに軒下へ入ったおかげでそんなには濡れていない。
「ねえ、このハンカチ貰ってもいいかな?」
「は?」
きょとんとした顔でキミがこちらを向いた。
「だって二回もこれ使っちゃったし、今更キミに返すのもなんか悪いなあって」
「気にするなよ。僕はどうとも思わないよ」
「その代わり、今度新しいハンカチを買いに行こうよ。お礼に買わせて。ついでに最近できたケーキ屋さんにも寄ろう」
その提案は思いもよらなかったのだろう、キミは少し驚いたらしく、ぱちくりと瞬きをする。
「……来週末でいいか」
もちろん!私は笑顔で答えた。
雨はもう小降りになっていた。

4/21/2024, 3:44:11 PM