vivi

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【夜の海】


大吾は埠頭に来ていた。護衛は出入り口に待たせている。
夜の海は深く、不気味だ。だが今はその闇が心を落ち着かせる。

峯が死んだ。

目覚めた頃には遅かった。
声をかけた時の、悲痛な表情が瞼に焼きついて離れない。
どこで間違えたのだろう。どうして気づいてやれなかったのだろう。峯の、深い闇に。

遺体はどうしたのかと真島に問いただしても、裏切り者の墓なんぞないと一蹴されてしまった。極道としてはよくあることだ。それを理解していても、問わずにはいられなかった。そもそもあの高さから落下したのであれば、遺体なんて綺麗な状態で残っているはずもない。
それでも。

「なんや、ずいぶんとおセンチやないか」

振り返ると、そこには真島がこちらへ向かってくるのが見えた。
足音にも気がつかないくらい、自分はぼうっとしていたらしい。
隣に並んで立った真島は大きなため息をついた。

「辛気臭いのぉ。それで弔っとるつもりかいな」
「いえ、そんなわけでは・・・」
「しっかりせえ」

鋭い声だった。

「六代目がそんな顔しとったら、他の奴らに示しがつかん。たとえ兄弟分だろうと裏切りもんは裏切りもんや。お前がそんなんじゃ、納得せん奴らも出てくる」
「・・・わかってます」
「ほならええ」

そう言い残して真島はひらりと片手を一振りして去っていった。

真島の言うとおりだ。東城会は今、不安定な状況だ。己がしっかりせねば。

胸元の内ポケットから煙草を一本取り出して咥える。そうすると、峯がいつも火をつけてくれたことを思い出す。
もっといろんな話がしたかった。もっといろんな表情を知りたかった。もっと、一緒にいられると思っていた。

愛していた。
確かに俺は、峯を、愛していたのだ。

「大吾さん」と呼ぶ低い声。あまり表情を変えない峯が、時折見せる穏やかな笑みが好きだった。ああ、好きだったんだ。

大吾は煙草を深く吸うと、まだ残っているそれを深い海に投げ捨てた。峯への想いと共に。



8/15/2023, 1:50:20 PM