このケーキを食べるべきか否か。
帰宅するなり「ケーキ買っておいたから」という一言が聞こえて、私の心はぐらぐらと揺れた。
成績が良かった時のご褒美はケーキ。それは昔からの約束だったから、お母さんは何も考えずに買ってきたんだろう。もしかしたら、先月からの私のダイエット宣言なんて、もう忘れてるのかもしれない。
テーブルの上にはケーキの箱。それを開けるべきかどうか。決められない私はただじっと箱を見つめる。
今日くらい食べたっていいさと、悪魔が囁く。
日々の積み重ねが大事なんですと、天使が私を諭そうとする。
どうしよう。頭の中で天使と悪魔が言い争う。まずは制服を脱ぐべきだって天使が言う。スカートがキツくなってきたから焦ったんだっけ。そうだよなぁ、食べちゃ駄目だよなぁ。
でもせっかくお母さんが買ってきたのに? あのケーキ屋のおじさんが丹精込めて作ってくれたのに? 悪魔がそう主張する。どちらの言い分も正しい。そこに善悪なんてない。だから私には決められない。
そうやって立ち尽くしてどれだけ経ったのか。
ぺたぺたという足音が聞こえたと思ったら、すっと横から小さな手が伸びてきた。
「お姉ちゃんダイエット中でしょう? 私が食べてあげる」
「駄目っ!」
意地悪げなミホの声に、私は反射的にそう叫んでいた。
ダイエットは大事だ。日々の努力が結果を出すのもわかる。テストの成績が良かったのもそのおかげだ。でもこの図々しい妹に取られるのだけは、それだけは許せない。
「えぇー?」
それまで動けなかったのが嘘みたいに、私の手が箱へと伸びた。
「これは私のだから!」
4/26/2023, 12:00:17 PM