「てぶくろ」
読み聞かせは、本末転倒だった。
「てぶくろ」というウクライナ民話の絵本がある。あるおじいちゃんが落としていった手袋に、いろんな動物が入れて入れてと集まってくるお話だ。
娘が保育所も年中ぐらいになった頃、さすがに抱っこして寝かしつけはなくなっていた。
添い寝をしてあげて背中をトントンしていれば、相変わらず寝るのが下手なので時間はものすごくかかるが、抱っこして寝かしつけるよりは、はるかに楽になった。
こちらが先に寝落ちしてしまっては元も子もないので、例によって早く寝てくれ感を出さないようにしながら、トントンする以外なにもできないこの時間をなんとか有意義に使えないものだろうかと、思案する日々が続いていた。
そしてアホな頭で考えた結果が、「読み聞かせ」だ。読み聞かせなんて、一生懸命考えに考え抜いた結果で出てくる案じゃない、そんなのは当然やってるよという方もいらっしゃるだろう。
実際は私も、娘が寝がえりもできなかった頃、ひよこクラブを読んで、読み聞かせっていいんだーと思って、実際にやってもいた。
やってもいたが、寝かしつけ意外にもやることが山ほどあったので、適当にやったりやらなかったり、結果あまりやっていなかった。
ところが、さすが年中さんにもなると、読んだら読んだなりの反応があった。昔は読んでいる絵本を、ただぼーっと眺めるだけだった娘が、もっと読んでと言ってきたのだ。
よし!
私もがぜんやる気になった。なら、いっぱい読んであげよう。私が本好きなので、娘も本好きになってくれたらいいなと、密かに思っていたのだ。本なんていくらでも読んであげるよ。
新書はおそろしく高いので、それから私は中古の絵本を探しまくった。絵本を読む期間なんて、そんなに長くはない。小学生になったらもう幼児用の絵本など読まないからだ。そんな読まれなくなった絵本は、ネットでいくらでも売っていた。
50冊セット(バラ売り不可)みたいな絵本たちが、人気不人気抱き合わぜで、いっぱい売られていたし、うちもセットで買ってダブった絵本を、また売ったりもした。
こうして、絵本は読み継がれていくのだなと、環境には優しいが作家さんには勘弁してくれ的な絵本のリサイクルシステム?を、当時は妙に納得して利用していたものだ。
こうして我が家には、セットで買った絵本に加えて、絵本の定期購読もしていたので、あっという間に読み切れないほどの絵本が集まった。完全に親の自己満足である。
それに対して、一冊読み終えると次読んでと、親の期待に見事なまでに答える娘。私も嬉しくて次どれにする?といって次の本に手を伸ばす。さぞ国語のできる子になるのではと、取らぬ狸の皮をたくさん売っていたのだった。
ところが、しばらくして私は自分の行為が、実は本末転倒だったことを思い知る。
「~はい、おしまい」「もっと読んで!」、「~はい、おわり」「次読んで!」
そうだ。娘は次から次へと本を要求し続け、寝ないのだ。読み聞かせは、寝かしつけの一環ではなかったのか。これではエンドレス読書会ではないか。
いつまでたっても寝ない娘。私は一冊で寝てほしかったのだが、そうもいかないので、結局五冊/日と、強引に決めた。
まず布団に入る前に五冊選ばせる。布団に入って一冊ずつ読む。そして五冊読み終わったら、娘が眠かろうがなかろうが、強制的に電気を消して、またあの忌まわしき背中トントンをやるのだ。
結局、長時間寝かしつけから逃れられない私がいた。
ちなみに、絵本のお話はどんどん長くなり、それに比例して、私の睡眠時間はどんどん減っていくのだった。
12/28/2022, 3:05:44 AM