頬に風が触れ、髪は揺れる。
草原に風が触れ、美しく靡く。
馬に風が触れ、鬣は畝る。
私は鞍の上に立ち、先を見渡した。
やはり、この草原は昔と変わらず青々として、羊に荒されていない。
しかし、この草原は昔とは違い、馬に食まれていなかった。
何か、有ったのか。
先の町に急ぐ。
もしかしたら、北の帝国が来たのかも知れない。
もしかしたら、私の故郷は呑まれてしまったのかも知れない。
さっきの草原は、私の部族の土地だった。
此処は山から遠く、広大とは言えないが広い土地だ。
頼むから、勘違いであってくれ。
頼むから、生きていてくれ。
私を遠方の西の国へ嫁がせた理由は、
私を守る為では無く、偶然であってくれ。
どうか、どうか、神よ。
今だけは、私の勘を外して下さい。
どうか、どうか、お願い致します。
3/30/2025, 11:37:17 PM