一ノ瀬 奏

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#9 冬晴れ

今日は散々な日だ。
年も明けたし前髪でも作ってイメチェンしよう。
なんて思って散髪屋で働いてた祖母からもらったハサミを手に取る。
鏡を見ながら、ここら辺かな、とハサミを当てた。
最近ハマってるマカロニえんぴつを口ずさみながら。
軽くハサミを閉じると、長かった前髪はどんどん下に落ちて行く。
真っ直ぐに切れたし、変なとこもない。
よし、可愛い。
あ、でも、ここをもう少し、と欲張ったところで瞼にハサミが軽く当たる。
ズキ、と小さい痛みを感じてハッとする。
よく見てみると、瞼に小さな傷ができていた。
それもそうだ、祖母のハサミは切れ味が良いのだ。
「気をつけて使いなさいよ。」
そう言われたのを今更思い出す。
急いでティッシュを持ってきて傷の上を軽くたたく。
が、全然血が止まらない。
こんなに小さい傷なのに、とムキになって出てくる血を拭き取ってみるものの、それでも止まらない。
「最悪なんだけど」
と言葉を漏らす。
私の口癖だ、最悪って言うことによって気持ちが誤魔化せる気がするから。
私があたふたしてるのに気づいたのか母が声をかけてくる。
「どうしたの、あぁ、切ったの?オロナインでも塗っときな。」
もうちょっと心配してよ。娘が血出してんだぞ。
心の中でツッコミを入れつつ、オロナインを受け取る。
「目に入らんようにね」
そうやって言いながら母は絆創膏を小さく切る。
そして、塗り終わった私の瞼に丁寧に貼ってくれた。
「なんかかっこいいじゃん」
なんてコメント付きで。
「かわいくなるために前髪切ったのに、喧嘩したみたいじゃん」
と私が肩を落とすと、少し笑いながら母が窓を指差した。
「空、真っ青だよ!」
つられて、そっちを見てみると、綺麗な冬晴れだった。
頬が緩む。
お母さん、ありがとう。
口に出せなくて、照れ隠しで母の頬をつついた。

1/5/2026, 2:13:12 PM