小学生の頃の私は、とにかくよく鼻血を出す子どもだった。ちょっと転んでもボタボタ、鼻をかんだはずみにもボタボタ。人生はじめてのお姫様抱っこは父が洗面所まで運んでくれたときに体験した。母が苦笑半分心配半分の顔で鼻に詰めてくれるティッシュの息苦しさは、私にとって慣れっこだった。
結局耳鼻科で血管を焼いてもらうまで、ずいぶんながい付き合いになった。
あるとき学校のプールの時間にもそれはやってきた。水圧がよくなかったのかもしれない。鼻の奥がゴボゴボして、気づけば鼻血が垂れていた。
先生にしばらく休むよう言われ、プールサイドの屋根の下にとぼとぼ向かった。日陰には上級生とおぼしき男子が三人(休んでいたのかサボっていたのかはわからない)。ちょっと離れて腰を下ろした。
ひとりラップタオルをかぶって体育座りをしているのはひたすら心細く、恥ずかしかった。
そのとき後ろから、
「おれあいつの気持ちわかるわー」
という声が聞こえてきた。上級生のうちのひとりだろう。
私のことを指しているんだとわかった。でも別に嫌な気持ちにならなかったのは、そこにばかにする響きがなかったからだと思う。ほかのふたりがクスクス笑うようなそぶりもない。
心が少し軽くなった。
それきり話題はほかのことに移って、血が止まった私もプールに戻った。
へこんでいるときになんでもないことのように向けられたあの言葉は、なんだか清々しかった。
(同情)
2/21/2024, 7:59:25 AM