とある恋人たちの日常。

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 朝、恋人が発熱していた。彼女は無理をするタイプだから仕事を休んでもらった。
 ベッドに寝かせたあと、早い時間からやっている薬局に向かった。ペットボトル、飴、ゼリー、飲み物の総合栄養食品を買って彼女のそばに置いておく。
 もう、その頃には発熱特有の赤い顔をしていた。
 
 目が覚めても力は出せないかも……。
 
 そんなことを思いながら、一度明けて締め直す。
 
 まあ、彼女が飲まなかったら俺が飲むなり食べるなりすればいいかと思っていたから。
 
 職場に到着して、隊長に事情を話すと余っている代休消化で午後半休を貰うことが出来た。
 
 いつも元気な彼女。
 普段ひかない風邪をひくと不安になると思っていて、どうしても早く帰りたかったから助かった。
 
 スーパーに立ち寄って、消化に良さそうなものを作れるように材料を買って帰る。
 
 荷物を持っていたとはいえ、大きな音を立てないように家の鍵を開けてそっと入った。寝室も同じように入ると、起きていた彼女が起きていて驚いてしまった。
 
「起きていたんだ、大丈夫?」
「さっき起きました」
 
 まだふわふわとした表情をしているから、彼女の熱を測るために頬に触れると、嬉しそうに俺の手に頬ずりしてくれる。
 
「まだ寝てて。ご飯食べられる?」
 
 彼女はそのまま頷くけれど、言葉を発することなく俺に両手を広げる。
 潤んだ瞳に、寂しそうな表情をしていて胸が痛くなった。
 
 こういう時の彼女は絶対に寂しいと思ったんだ。
 そう思ったから早く帰りたかった。
 そばにいたかったんだ。
 
 俺は安心して欲しくて笑って、彼女を抱きしめる。
 するとしっかりと抱きついてきた。しばらくすると胸元が熱を感じる。
 
「うぅ〜〜〜……」
 
 ああ、やっぱり寂しくて不安になってたか。
 
 俺は安心して欲しくて、彼女の背中をゆっくりとたたく。
 
 泣かないで。
 
 一瞬、そう思った。
 でも、彼女が隠すことなく泣けるのは俺の前だけならば、そのまま泣いて欲しい。
 
 ずっと、ずっと。
 そばにいるからね。
 
 
 
おわり
 
 
 
一九八、泣かないで

11/30/2024, 12:15:34 PM