科学とは全く便利なもので、人間以外の生物の目にだってなれる。それ専用のコンタクトをつかえば鵜の目鷹の目なんでもござい。いや、文字通りの意味で。
閑話休題、私は今からその化学の恩恵を受けるのだ。先述したが、鵜の目鷹の目に鴉の目、獅子に兎にチンアナゴ。ブロブフィッシュって、アイツ目見えてたのか? 況やYouTuberの商品企画かと突っ込まれるかの如くのラインナップ。いっそ映えでも狙って綺麗に並べてみようかとすら思う。地上に幾万と動物がいるのは既知のこと。されど、皆がみな、視界に相違があって面白い。
濡れそぼった眼球にコンタクトを押し当てる。世界を見渡せるほど視界を開くもの、煌々と光が瞼を焼くもの、世界の色相が一層鮮やかなもの、素早い動きも容易く追えるもの。
「素晴らしいなぁ……ああ、だけども…………」
だけど、だけど。好きな人の見えている世界には到底及ばない!
コンタクトを外す。ぐんにゃりと曲がって床に打ち捨てられたそれは、まるで私の心情を具現化したかのようだった。彼女の世界が、彼女の好きな夕暮れが、彼女の視界と同じようには映らない。当たり前の現実が、それでもひどく寂しかった。
「……あなたの絵、好きだったんだよ。本当に」
ああ、光を、色を失った好きな人。きっともう二度と絵を描けない。素晴らしい科学の進歩は、それでも彼女の視界を蘇らせることは不可能だと判断した。世界中のどこを探しても、あなたの目を代わりには到底なれない。それがひどく虚しくて、コンタクトの空き箱を蹴っ飛ばした。
お題/瞳をとじて
1/23/2025, 5:11:01 PM