なのか

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いつの間にか、帰り道を共有するようになった。正門から坂道をのぼって横断歩道を渡るまでの五分に満たない時間。
「フウね、いつか韓国に住みたい」
「韓国好きなの?」
「好き。韓国ってね……」
大抵はこんな感じで、彼女が好きなものや興味のあることについて話し、それに相槌を打つ。たまに相談事を持ちかけられ、誰にでも出来るようなアドバイスを送ったりすることもあった。
「……それでね、韓国語の本買いに行きたいんだけど、一緒に行こ?」
歩行者信号が青に切り替わるのを待っている時だった。いつもはここを渡ってまた明日と手を振るのだけれど、丁度欲しい本もある。
「いいよ。付き合う」
信号が切り替わって渡ろうとすると、袖を掴まれた。
「そっちじゃなくて、ショッピングモールの方に行きたい」
ショッピングモールは帰り道とは真反対にある。ここまで歩いてきたのだから、横断歩道を渡った先にあるレンタルショップの方に行くのかと思っていた。
「沢山あった方が見てて楽しいから」
踵を返してモールへと向かう。道中は彼女に流されるまま寄り道を繰り返して、十五分で着くところを倍近くの時間がかかった。
モール内の書店に着いてからは、新作小説のコーナーをさっと見渡した後に語学書のコーナーへと移った。表紙のイラストが可愛いとかカバーの手触りが良いとか、内容よりはその本自体を好きになれるかどうかを重視する選び方が、とても彼女らしい感じがした。
「帰り道って、なんで短いんだろ」
無事に買い物を終えて、いつもの帰り道まで戻ってきた時だった。
「歩いても歩いても前に進まない道があったらいいのに」
「怖い話だ」
「怪談は無理。でもお化けと仲良くなってみたい。数学のテスト中にこっそり答え教えてもらう」
「悪い話だ」
折悪しく、互いの帰路を分ける横断歩道に捕まってしまう。
「寄り道したらいいんじゃない?」
歩行者信号をじっと見つめる。
「今日みたいに。」
続きはあった。けれど言葉は上手く出てきてくれなかった。歯科医院の看板のキャラクターが自分を見ている気がした。
信号が青に変わる。二人は止まったままで、左折を試みるドライバーが訝しげな視線を投げかける。
「する。寄り道、たくさんする」
唸りを上げて車が左折していき、歩行者信号が赤に切り替わる。
近くにいるのに遠回りして。帰り道は、まだ終わりそうになかった。

11/28/2023, 9:30:09 PM