『楽園』
そこは確かに楽園だった。
私も最初は楽園なんてものを信じてなかった。
けれど何度か足を運ぶと次第にわかってきたのだ。
そこは笑顔で溢れている。
そこは愛で溢れている。
そこは私を苦しませるモノはない。
そこは心を柔らかくし、ほぐしてくれる。
そこを楽園と呼ばずに何と呼ぶのか。
「いらっしゃいませー」
カランとドアベルが鳴るのとほぼ同時に入店の挨拶がかかる。
店員も、もちろん笑顔だ。
「担当はいつもの彼でお願いします」
私も何度も通っている身。
すでに勝手も分かっているため、最初に決めておくべきことを次々と指定していく。
席に着いてほどなくすると、彼が来た。
私のお気に入りの彼。
キリッとした外見なのに、少し甘えん坊でギャップがたまらないの。
あぁ、好き。
彼はやはりこの店の人気者だから、指名料もかかるけど彼を独占するためには仕方ない。
もはや最近はここでお金を落とすために働いているとも言える。
「今日も会えてうれしいわ」
私は彼に微笑みかける。
彼は寝起きなのか、少しだけ不機嫌そう。
こんな所も可愛くて好き。
私は頼んだドリンクを一口飲んで心を落ち着かせた。
そして心を決めて、そっと彼の頭を撫でる。
(くっ……!)
極上の触り心地で指先から溶けていきそう。
あぁ、ダメ、好き。
私は夢中になって彼を撫で回した。
「今日も君の好きなおやつ、ちゃんと買ってあるからね」
その言葉に彼も反応して、さっきまでの不機嫌は何処へやら。
早くよこせとばかりに私にすり寄ってくる。
あぁ、可愛い、好き。
「はい、あーん」
口元までおやつを持っていくと、待っていましたとばかりにシャクシャク良い音をして食べはじめる。
夢中で食べてる姿もなんて可愛いの、好き。
「焦らなくてもまだいっぱいあるからねー」
モヒモヒと動く鼻、長い耳。
本当にウサギという生物はどこをどう見ても可愛い。
本当にここは楽園だ。
4/30/2024, 10:28:01 PM