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先日知った言葉で「デミロマンチック」というものがある。
私も意味をきちんと理解していないけれど、親しい人にしか恋愛感情を抱かない、というものらしい。一目惚れをせず、全く知らない他人に恋愛感情を抱くことを理解できない、等が当てはまり、なるほどなと思った。
アイドルや俳優にハマることはあっても、恋をしたりする感覚はずっと分かっていなかった。学生時代に友人が、話したこともない男の子のことを「好き!」と言っているのを見て「顔と恋愛するの?」と思っていたし、知らない人からの告白は「どうせ体目当て」と心を閉ざしていた。後者は正直合っているかもしれないけれど、真偽はわからない。ただ、どちらも軽蔑していた。
そんな私でも、恋愛経験がないわけではない……と先日までは思っていた。誰にも言えない秘密というのは、自分から「恋人」を望んだことが一度もないと気が付いてしまったこと。
数年前に結婚した夫とは元々、よく遊びよく話す友人だった。というより、今も友人だと思っている。何年かかけて友人として仲良くなり、告白されたので付き合い、結婚したのだ。しかし、告白された当初は夫に恋はしていなかった。ただ、断ったら大切な友人が離れてしまうと恐ろしくなり、大切な友人なのだから要望は叶えたいと思い、私も好きだった付き合おうとなったのだ。これはとても不誠実だったと思う。
(一つだけ先に言うと、私は夫のことが好きだ。いまから友人に戻ろうと言われたら、そう考えると胸が痛い。)
幸運なことに、付き合う、という行為にそこまで激しい抵抗感はなく、彼ならばいいか、という気持ちで数年付き合った。その中で、どこから芽生えたのかわからない、家族とも友人とも違うような、家族であり友人でも恋人でもあるような情が育った。めでたしと言えるだろう。
しかし先日、デミロマンチックの話を聞いたとき、私のなかの「恋愛」とは友愛や親愛に付属可能なオプションであり、自分から生み出すことは出来ないのでは?と疑念が浮かんだ。
思えば恋人というものがいたとき、全て相手からのアプローチで交際が始まっていた。いつも私の心にあったのは友人を失いたくないという気持ちだけ。永遠に友人でも良かった。そもそも相手は友人としてではなく恋愛の相手として仲良くしてくれていたのでは、と考え泣いたこともあった。
疑念を持ったところで、恋愛感情などという形もなければ定義も曖昧なものに結論は出ない。漠然と、私はそういうタイプの人間だったのかもしれないなあと思うだけである。
これを夫に話すと不安がらせてしまう気がするので、私はこの考えを秘密にしておこうと思う。

6/5/2024, 2:08:58 PM