手すりに掴まり、電車の揺れに身を任せながら
一人の男がため息をつく。
会社では上司に責められ、家では嫁に冷たくされ、
身も心も限界に達していた。
「やよい駅~ご乗車の際は──」
人がどっと押し寄せ、ぎゅうぎゅう詰めになる。
最寄り駅までの道のりは長い。
ふと、甘い匂いが男の鼻を掠めた。
目の前に立つ女子高生から香るものだ。
そっと太ももを撫でると、
女子高生はわずかに身を震わせる。
期待通りの反応に男はニヤリと口角を上げた。
これが最近のストレス解消法だ。
標的はいつも大人しそうな相手を選ぶ。
おかげで今まで一度も訴えられた事がない。
下手すれば仕事も家庭も失う恐れがあるが、
このスリルがたまらない。
「きさらぎ駅~ご乗車の際は──」
次の駅につくと、女子高生が男の方へと振り返った。
「一緒に降りませんか?」
顔も声も想像以上にかわいい。
断る理由がなかった。
その後、男の姿を見たものは誰もいない。
お題「スリル」
11/12/2024, 5:35:37 PM