◎元気かな
#64
「どこダ……何処いっタ……」
「……」
今日も今日とてしつこい輩を撒き、
ビルの屋上に立って眼下の街を見下ろす。
夜の権力者による"狩り"が続く街中からは
断末魔の叫びが聞こえてきた。
最早、日常と化した地獄を見つめながら
薄汚れたコートの内からライターを取り出し、しわくちゃになった煙草に火をつける。
喧騒の中に混じる死のにおいと紫煙を
深く吸って味わった。
ドブネズミのように逃げ隠れする日々で、
これだけが唯一の楽しみだ。
「明日はどこで食いもん探すかね……。
──誰だ」
微かな物音を拾い、警戒態勢をとる。
「待って待って!俺も人間だ!」
物陰から現れた先客は疲れた笑顔を
こちらに向けた。
「あはは、えーーと、元気?俺は、うん、見てのとおり疲れてる」
「アンタの縄張りだったのか、邪魔したな」
「あーーっ待って!久々に生きてる人間に会えたんだ。ゆっくりしていってくれよ」
男は右足をさすって苦笑した。
どうやら怪我をしているらしい。
「アンタ、運が良いな。その足で生き残ってるとは余程の豪運だ」
「まる2日は動けてないんだ。奴らに見つからなくて本当にラッキーだったよ」
いつ見つかるか知れない恐怖に耐えていた男は顔色が良くない。
今にも倒れてしまいそうだった。
「今夜は共にいてくれないか、煙草くん」
「良いぜ、おっさん。袖触れ合うも他生の縁っていうしな」
4/9/2025, 12:04:25 PM