とある恋人たちの日常。

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 前に行ったことがあるプラネタリウムにまた行こうと話になり、彼女と休みの日に行くことにした。
 少しだけ値段を上乗せしてプレミアムシートを選ぶ。
 
 最近はこういう予約をウェブでできるからありがたいよね。
 
 プレミアムシートのふたり用のシートは横になれるシートで、俺たちはお互いの頭を寄り添わせながら天井を見上げた。
 
 新鮮な空気、音、ナレーションの声、視界いっぱいに広がる星空。
 見入っていると、俺の手の甲に彼女の手が触れた。その瞬間に物語りの中にふたりいることを思い出させる。俺は自然と彼女の手を握った。
 息を飲む小さな声とぴくりと身体が震えるけれど、すぐに俺の手を握り返してくれた。
 
 そしてもう一度、星空の物語りに集中する。
 
 
 ――
 
 
 プラネタリウムの演目が終わり、人々が退出していく。俺もゆっくりと身体を起こし、彼女を見るとぼんやりとしていた。
 
「大丈夫?」
 
 俺の声が届いてようやくしっかりと意識が戻ってきて俺を見つめた。
 
「あ、大丈夫です」
 
 俺は彼女に手を差し出すと彼女は手を掴んでからシートから身体を起こす。どこかふわっとしている彼女が倒れないように腰に手を回した。彼女の体調が心配になる。
 
 プラネタリウムの待ち合いのフロアへ連れていき座らせた。彼女はまだぼうっとしているから、飲み物を買いに行く。
 せっかくならこのプラネタリウム限定のボトルで買おう。
 
 飲み物を彼女に差し出しながら彼女の表情を確認する。俺は救急隊員だから、本当に体調に悪いなら確認が出来るんで、こっそり診るけれど顔色は悪くない。体調を崩している訳じゃなさそうだな。
 
「あ、大丈夫です。すみません」
「ゆっくりでいいよ。無理しないでね」
「はい。あの……やっぱりここのプラネタリウム好きです」
 
 確かに去年見た時より進化しているし、彼女の好きそうなストーリーだとは思った。
 
「うん、今日の凄かったね」
「はい。私、空に溶けるかと思いました」
 
 少し前に比べて表情に色が付く。瞳に感動が入って言葉を紡ぐたびに笑顔になっていった。
 
「あの、また一緒に来たいです」
 
 どうやら相当彼女の心を奪ったみたい。
 それはそれで妬けちゃうけど、彼女のキラキラした瞳を見ていると、その言葉を飲み込んでしまった。
 
「また来ようね」
「はい、また一緒に!」
 
 
 
おわり
 
 
 
三六九、空に溶ける

5/20/2025, 1:53:35 PM