つぶて

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刹那

またいつか。
ほんの少し前の言葉を、唇がたどる。
寂れた夜の家路。いつもより人の気配が多い気がして足早になる。身に余るほどの幸せを抱えた自分が恥ずかしくて、恐れ多くて、見上げた月にさえ恐縮してしまう。駆け出したい。喜びたい。楽しかったと、声に出したい。
早くも思い出となった記憶が込み上げてきて、その一つ一つが温かい泡沫となって胸に沁みていく。
「誘って、よかった」
他人と時間を共有することが苦手だった。相手の時間を奪うこと、その代わりを自分が埋め合わせできているのかという不安。意識しているわけではないけれど、頭のどこかに付き纏う。だから私はいつも誘われる側で、自分から何かを企画したことはなかった。
何度も断ろうとした。中止にしようとした。プレッシャーがあった。自己満足で終わりはしないかと不安で仕方がなかった。だけど、最後に何もないまま、みんなと終わりにはしたくなかった。
ポケットの中、スマホを手に感じる。その先にある繋がりを意識してまた嬉しくなる。そして気付く。好きなのだと。みんなとの繋がりが。さらにいえば、人との繋がりが。一人が好きなはずの自分には意外なことだった。
人が変わるのは、たぶん刹那のことなのだ。そんなふうに思うのは、もっと時間が経ってからのことだ。

4/28/2024, 7:41:50 PM