君が紡ぐ歌
少しひしゃげた歌声が響く。
少し古びた曲調が響く。
少し音のズレたコードがギターから響く。
全て貴方から響く音だった。
全て貴方が教えてくれた曲だった。
真冬の河川敷で、少し震えながらギターを鳴かせ、枯れそうになりながら声を響かせる。
そんな貴方と、震えながら隣にいる時間が何にも変え難い幸せな時間だった。
貴方の鳴かせるギターのコードは音程がズレていて、辺りを歪める。歪みきった辺りを1本の剣のように貴方の声は私の耳を、心を突き刺す。
満足気に歌い切り、カタカタと震えカツカツと歯がぶつかる音がする。それでも貴方は満面の笑みで、赤くなった指の痛みを感じていないようだった。
そっとカイロを渡すのは、私の役目だった。ありがとう。と笑って受け取る貴方を見る、特等席だった。
そうして、何度もギターを鳴かせ、声が枯れるまで貴方は私の隣で歌っていた。
今日も、あの日の動画を見つめる。
貴方の突き刺すような歌声は機械では丸くなってしまい、ギターの歪みはほとんど聞き取れない。
あの日と似ても似つかない歌が流れる画面には、寒さを堪えながらも嬉しそうに歌う貴方の姿があった。
私は、そんな貴方にカイロを渡せない。
10/19/2025, 10:20:19 AM