Open App

『Love you』


この世の何処かには死者を運ぶ船があるらしい。
そこに乗っている死者は、死ぬ間際に伝えられなかった言葉を伝えたかった人に伝えれば空へ昇って行くとか………。

そんな話を思い出したのは今日が亡き恋人の誕生日だからだろう。
まだ彼は若かった。これからもっといろんなことをするはずだった。なのに、クソ野郎に命を奪われた。

そんな奴を一人でも多く監獄にブチ込むために警官になったが、心の穴は埋まらない。
ただ虚しく夜空を見上げていると、遠くになにかが見えた。だんだんと近づいて来る。

距離が大分近づいたところで何かの正体が分かった。船だ。それもすごく大きい。軽く500mはあるだろう。

もう手を伸ばせば届く程の距離に来た所で、船の窓に人影が近づいて来た。
彼だ。一目でそう分かった。真っ黒だったのに。

「あィ・ラぶゅー」発音が少しおかしかったが、彼の声だ。何度も夢に見た。「私も乗りたい、乗せて!」漸く逢えたのだ。もう離れたくない。

「ダめ。キみㇵボくに囚ワㇾすギテる。君ハ、キミのじんセいヲ生キて」「ばィバい」

行かないで。愛しい貴方。そう思うのに船はどんどん遠ざかって空へ昇って行く。
完全に見えなくなった頃、私の眼からは大粒の涙が溢れ出した。涙なんてとっくに枯れたと思っていたのに。

ひとしきり泣いたあと、私は辞表を書き始めた。
明日からは、自分の人生を生きよう。彼がそう言ってくれたから。


-fin-

2/24/2024, 8:23:52 AM