雷羅

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 はぁ、とため息をつく。
 久しぶりに仕事で大きなミスをして、その修正がようやく終わったところだった。上司は怒ったりしなかったが、大急ぎでやった修正に手一杯で怒る暇もなかっただけかもしれない。
 外はすっかり夜が更けて、向かいのビルの光がよく見える。そこでなにが行われているのか知らないが、きっと私のように残業をしている人がいるのだろう。
 明日謝罪に持っていく菓子を買って、今日は早く帰ろう。疲れたし、甘いものでも食べたい。
 一人だけになった事務所からトボトボと歩き出す。もう他の部署にも人は見えない。こんなに遅くまで居残ったのは、繁忙期以外では久しぶりだった。
 なんとなく戸締まりの確認をしながらエレベーターへと向かっていると、もう誰もいないと思ったのに一人、前からやってくる。
 他部署の同僚だ。研修の時に同じグループにいて、そのまま時々話す仲になった。
 まだ残ってたのか。じゃあ挨拶くらいしようか。
 そう思って口を開くより前に、同僚からなにかを投げ渡された。

「あっ、えっ!?」
「おつかれー、戸締まりしとくから早く帰んなー」

 すれ違いざまにそれだけ言って、同僚は私の返事も待たずに去っていく。その背中に辛うじてありがとうの声を届け、それからなにを渡されたのかを確認した。
 手の中に収まっていたのは、ホットレモンの小さなペットボトル。少し熱いくらいの熱がじわりと手を温めて、疲労で体温が低くなっていたのだと教えた。

「……お礼する人増えちゃったな」

 ペットボトルを開け、一口飲む。
 甘い味の中にレモンの酸っぱさがあって、疲労に染み込む。温かさが体内に広まったのを確認して蓋を締める。
 明日は気を取り直して頑張れそうな気がした。

10/19/2023, 11:17:45 PM