夜雨と春歌

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【自転車に乗って】



「逆だと思うんだよなぁ……」
 背中側、荷台に腰かけた夜雨からぼやきが聞こえる。
「でも、ヨウよりわたしの方が体力あるよ」
「それはそうだけども」
 放課後、制服姿、自転車のふたり乗り。何十年も前から代々の少年少女が憧れた青春の一頁だ。
「イマドキそういうこと言わないらしいよ」
 ぐっと、ハンドルを握る手に力を込める。
 本当は、『今時』だとか『古臭い』だとか、そもそも『男は』『女は』『ジェンダーレス』とか、春歌は普段はあまり意識しない。今はただ、後ろに夜雨を乗せて走る理由になればそれでよかった。
「それより、おまわりさんに見つからないこと考えた方がいいよ」
「それは本当にそう」

 このままふたり、どこまでもペダルを漕ぎ続けて、大丈夫だと証明してみせたかった。
 いつでも君をどこか遠くまで連れて行くことができるのだということを。

8/14/2023, 10:52:27 PM