シシー

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 いつも食卓をはさんで向かい合わせに座るの。
二人で使うには広すぎるテーブルに惣菜を皿に盛った夕飯だ。もちろん手作りのものもおいしいけれど、毎日作るのはとても大変だからね。はりきる理由もないのに作る必要はない。

 いただきます、と手を合わせて食事をはじめる。
食べてるときは特に無口になってしまう私の代わりにニュースキャスターが喋ってくれる。それをたまに拾ってポツポツと話しながら食べるのだ。
 つい最近までずっと晩酌をしていたのだけど、減量とその他諸々の理由でやめた。最初こそ驚かれたし誘われもしたけど頑なにお酒を口にしないでいたらそれもなくなった。
 
「そういえば――」

 そうやって私から切り出した話題は失敗だった。
あふれ出る不満と悪口の数々に閉口せざるをえなくて、食事の味なんてどこかへ消えた。
主に両親の夫婦仲や父の経歴、私を含めた姉弟を貶す内容で、私に涙ながらに同意を求めてくる姿に一切の感情も湧かない。挙句の果てに誰にもいうなよと念を押されてしまえば笑って頷くしかない。
 こういうとき向かい合わせに座っていることを後悔するんだ。涙を浮かべて困ったように眉を下げているくせに嘲るような笑みは全く隠せていないのがよく見えてしまうからね。

 自分の両親や兄弟、親戚は褒めて自慢までしてくるくせに。なぜ私の前で両親と私たち姉弟を貶し私に同意を求めることができるの。
 母に当たり散らし、父とぶつかり合って、私にベラベラと腹の中を曝すあなたに何がわかるというの。弟妹に当たらないところだけはまだ理性が働いているんだね。よかった。

 でもね、勘違いしないでほしいの。
あなたは私が狂ったのは両親せいだといったけれど、こうやって二人きりで食卓を囲むことになった時点で察しなよ。狂ったのは私なのか、それともあなたなのか。両方かもしれないね。

 ねえ、うるさいからもう黙っててよ。

             【題:向かい合わせ】

8/25/2023, 11:27:21 AM