もっと高みを目指さなければ 。
首領の役に立てるように 。
「 ……… ま 、 ンな事これっぽっちも思っちゃいねぇけどさ 。 」
木刀を振る 。
静かなトレーニング室に空を切る音が響く 。
高みを目指しているのは本当だけれど 。
「 …………… 」
部屋の隅でトレーニングをただ眺める少年が 、
幾度かの空を切る音の後に口を開いた 。
「 首領のために強くなろうと思わないのか ? 」
暗く沈んだ深海の底のような瞳を向けて
質問の答えをひたすらに待つ 。
やがて振っていた木刀を止め 、
乾いた音を立てて剣先を床に当てた 。
「 勿論 。 」
良い笑顔だった 。
「 首領のためじゃねぇ 、 俺のためだ 。 」
少年は黙ってしまった 。
下を向いて 、 何かを考える 。
しかしその時間はあまり長くは無かった 。
「 俺は ……… 強くなりたい 。 首領のために 」
これまでに無い程 、 真っ直ぐな目で 。
その瞳は 、 太陽の射し込む海の色だった 。
「 ……… そうか 。 じゃあ特訓するしかねぇな 」
狂犬は笑う 。
木刀を少年の方に投げた 。
「 高く高く昇って見せろ 。 そうじゃなきゃ首領にゃ届かねぇぜ 。 」
- 高く高く
- 山吹シュヴェールト 、 柑子浅葱
10/14/2023, 2:24:30 PM