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『裏表のない』とよく云われる。
確かに我ながら性格は捻くれてはいないと思う。何故なら常に己の肉体を鍛えてきたからだ。肉体の強さは内面の強さ、やはり筋肉こそが総てを支配し凌駕するのである。
ただ、裏表がないというのとは少し違う。
確かに俺は大概の事に対して寛容である。
だが―――
こいつの事となるとそうもいかない。
好きな事をして自由に生きて欲しいと思う反面、嫉妬もするし、独占したくもなる。
否、そんな生易しいものではなく、もっと汚く暗い感情を持つことさえある。
俺以外の奴の事を考えないで欲しい。
どうかその声を、目線を、他のやつに与えないで欲しい。どうか俺以外の事で悩まないでくれ。もしもお前でも泣くことが有るのならば、その涙の理由は俺だけであってほしい。
こいつの総てを俺だけにしてしまいたい。
けれど其れは望みであって望みでは無い。そんな風に俺だけに染まったあいつは俺の愛するこいつではない。
―――悩ましいぜ、全く。
俺はその細身ながら筋肉の程よくついた背中をそっとなぞった。
寝息が乱れ、少しぴくりと痙攣する。
罪悪感と優越感に心が満たされてゆく。
―――俺はこの先もずっとこうして生きていくのだ。
二つの相反する感情。
光と闇の狭間で。
12/2/2024, 4:50:18 PM