「私の名前」
「どなたか教えてください。私の名前、ご存じの方はいらっしゃいませんか?」
名前。一人が一つだけ持つもの。人によってはいくつかの名前を使い分ける人もいるだろう。だが、全く名前を持たない人はいない。だから探せばきっと誰かが私の名前を知っているはずだ。
「あの人、気持ち悪いんだけど」
「あれ、人じゃないよ」
そう言われてよく見ると頭の上にネジがある。人と人型ロボットを識別するためのネジ。別にネジである必要はないのだが、機械の象徴として選ばれた。
最近のロボットは精巧すぎて人と区別がつかないことがある。うっかりロボットと知らず恋をしてしまう事例が数多く発生したため、はっきりさせるために導入された。
人とロボットが恋をしたところで子どもは生まれてこないからだ。労働人口が減ったことで人型ロボットが開発されたわけだが、これではますます人口減少に拍車がかかる。
人は名前を持つが、人型ロボットは持たない。アルファベットと数字の組み合わせからなる製造番号があるだけだ。
「あのロボットどうしちゃったんだろう?」
「多分、人と恋をして捨てられた。自分を人だと思い込んでる。まれにそういうバグが発生するらしいよ」
「かわいそう」
「なら、あんたが恋人になって名前をあげれば?
「俺?そうなってもいいの?」
「嫌だ」
「VYTG72694AR、俺には君だけだよ」
「うれしい。たかし」
ねえ、一つ教えてあげる。名前なんてなくていいのよ。人になろうなんて望んじゃだめ。ロボットはロボットのまま愛される方が幸せでしょ?
7/20/2024, 11:24:15 AM