西の護符屋

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 ネトゲで出会った友人であり、アパートの隣人であるイツヤは、いつも語尾に感嘆符をつけて喋るような人間だった。明るいが考え無しで、行動力はあるがせっかちで、LINEはメッセージより通話を好んだし、たまに送られてくる文面は単文が羅列され、翻訳中の外国語のようだった。
 そんなイツヤから俺に珍しく単文でないLINEが一件来た。

しばらく帰れん!お宝処分よろ!引き出し二段目!家の机!鍵番0528!元気!しばいたら帰る!

 色々とツッコミどころが多過ぎる。俺は眉間を解しながら矢継ぎ早に返信を打った。

                今どこにいるんだ?
       語尾が勢い良過ぎる自覚あったんだな。
                 何をしばくんだ。
     俺お前の家行って不法侵入で捕まらんよな?
              いつ帰ってくるんだよ。
   帰り次第、鍵の番号をわかりにくいのに変えろ。

 色々と尋ねたいのに全く既読がつかない。
 半日待って変わらない画面を確認した俺は重い腰を上げた。俺達が住んでいるこのアパートでは、数字の暗号鍵でも、普通鍵をかけていない場合のみ開錠できるようになっている。

(い…つ…や…)

0528と入力して隣の部屋を開錠する。おそるおそるお邪魔した部屋は、全てがやりかけで終わっているような有様だった。     米粒のついた茶碗。半分だけ開いたカーテン。片方だけ部屋の真ん中にあるスリッパ。頑張ってそれらを無視して、イツヤが指定した「お宝」を確保した俺は深いため息をついた。
 ケモ耳の娘がミミズのようなものに囚われている表紙のソレやアレを濃紺の袋に入れて厳重に封をする。

           オマエのお宝は俺が預かった。
           俺の趣味と疑われたくねぇわ。
        さっさと、しばき倒して帰ってこい。

 既読のつかないLINEに追加で送る。

        何お前、魔王でも倒しに行ってんの。

 流石に、送った後にすぐに消去する。
 しかしイツヤなら、今流行りの異世界転移とやらをしても、ケモ耳の女の子に囲まれて大喜びしながら最短で問題を解決してくるだろう。

(いやまさか…まさか、な。イツヤの好きな展開に影響されすぎ。)

 結局、だ。

 イツヤがWi-Fi設備の壊れた遠洋漁業船から、冷凍マグロの写真を片手に帰ってきたのは数ヶ月後。

「重要なことが抜けてるわっ!
変な言い方すんじゃねぇ!
何よりてめえの性癖の変な布教をすんじゃねぇっ!」

 イツヤに対する俺の言葉全てにしばらく感嘆符がついたのは仕方がないと思う。
 あー!もー!おかえりっ!

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 フィクション。その後連絡がつかなくなった相手からのメッセージは気になるだろうなと思って作りました。多分マグロはしばいて獲りません。

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 調べたら遠洋漁業船は今ほぼWi-Fiついてるし、バイトは無くて正社員だし、思い付いたは良いけど本当は割と詰んだ設定でしたね。10年くらい前ならありなのかもしれない。
 ただ、明るくてサッパリした性格のイツヤは、ネトゲで廃課金者なので勢いで漁師さんになっても良いかもしれない。ただし一本釣り猟法は2時間とかかかる我慢比べでもあるらしいので、無理だな。
 在宅ワーカーな「俺」はコツコツが得意なツッコミ役だけどイツヤみたいな明るいぐいぐい系の人になんだかんだ救われる人。
 久しぶりの友へのLINEを送ることができる人がイツヤで、受け取って返信内容に悩むのが「俺」かな。
 …これを小説内に盛り込むんだよ!(反省会)

7/12/2024, 3:33:38 AM