『愛を叫ぶ。』
あたしの名前はモブ崎モブ子!
私立ヘンテコリン学園に通う高校一年生。
あたしは今、気になっている男子がいる。
同じクラスの不良系イケメン、
セバスチャン・フェンリル君だ。
授業中も彼の事を目で追っていた。
窓際の席に座る彼の横顔を見つめていると、
胸の奥に言葉にできない感情がこみ上げてきた。
お昼休憩の時間、
高飛車お嬢様が彼に何やら話しかけている。
「セバスチャン、売店で焼きそばパンを
買ってきて欲しいですわ。
それとオレンジジュースも飲みたいですわ」
「かしこまりました」
彼は飼い主からボールを取ってこいと命じられた
忠犬のように、機敏な動きで教室を後にした。
は?あの人何様なの?!
彼を召使いみたいにこき使って……。
信じらんない!
あたしは席を立ち高飛車お嬢様に声をかけた。
「ちょっといいですか?」
「あら、貴女は確か……モブ山さん?
モブ川さん?だったかしら」
「モブ崎です!それよりも……彼をあんな、
パシリみたいに扱うのやめてくれませんか?」
「彼?セバスチャンの事ですか?
あの者は私の屋敷で働く執事ですわ。
私の願いを聞き入れる事こそが彼の仕事。
外野が余計な口を挟まないで頂戴」
「でもここは屋敷じゃなくて学校ですよ。
外でまで彼の自由を奪うのはどうかと思います!」
それを聞いた高飛車お嬢様は
腕を組み、あたしをキッと睨みつけた。
「貴女、さっきから何なんですの?
もしかして彼の事が好きなのですか?」
「え」
あたしが、彼を、好き?
モブ子の脳裏に彼との思い出が蘇ってくる。
入学式での最悪な出会いから、
河川敷で子犬のお世話をしている姿、
花園で髪に付いた芋けんぴを取ってもらった事。
「何とか言ったらどうなんです?」
モブ子は拳をぎゅっと握りしめる。
あたしは────
「あたしは、彼のことが好きだー!」
教室の中心で、愛を叫ぶ。
口に出してようやく理解した。
これが、恋なのだと。
クラスの皆の視線がモブ子に集中しているが、
もうこの際構わない。
モブ子の愛の叫びに驚きを隠せないお嬢様は、
ひくりと引き攣った笑みを零し、
「まあ、まあまあ、おめでたい事。
そんなに好きなら告白でも何でもしなさいな」
と意地悪く言い放つ。
「ええ、言われずとも」
モブ子はその言葉に対して強気に返してやった。
セバスチャンが食堂から帰ってくると、
教室内が何やら騒がしい。
入口から中の様子を窺うと、
主とクラスの女子がまるで
猫の喧嘩のように互いを睨み合っていた。
二人の間にはバチバチと火花が散っている。
「これは一体……」
「セバスチャン、女の戦いに男は
口を挟まない方が賢明ですよ」
学級委員のオズワルドはセバスチャンの
肩に手を置き、首を横に振った。
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モブ子は帰宅後、昼間の出来事を
思い出して、羞恥心から枕を殴っていた。
(あたし、みんなの前でなんて事!
彼に聞かれてなければいいけど……)
高飛車お嬢様に目を付けられる結果と
なってしまったが、後悔はしていない。
彼は絶対に渡さないんだから!
モブ子は心の中でそう決意したのであった。
5/11/2024, 5:45:05 PM