夜歌

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 白くて美しいその子のことを、わたしはいつも遠目に見ているだけだった。奔放なのに凛とした姿勢が近寄りがたくて、どうにも馴れ合う気質には見えなかったからだ。それでも生き延びる知恵を備えているらしいことは明らかで、わたしは特に甲斐甲斐しい世話なども焼かなかった。
 なのにどうして、こうなったのか。──礼儀を弁えているお客様は、ご丁寧に窓をノックした。繰り返される音に外を見遣れば、映る白くてスラリとした姿に、思わず間抜けな声が出るというものだ。一拍遅れて窓を開けると、その子は落ち着き払った様子で佇んでいた。室内に入ってくる気配はないが、立ち去る風でもない。

「ええと、」
「何も、あげられるものとかなくて」
「今日はこのあと、用事もあって」
「だから……」

 戸惑いを隠せずにいるわたしのことなどお見通しとばかりに、その子は綺麗な青い瞳でわたしを見上げている。「……明日までに、用意しとくね?」たくさん考えてから出したその返答を聞いて、にゃあ。ようやっと楽しそうな声を挨拶に、その子はくるりと踵を返して行った。
 約束を違えるタイプには思えないから、明日までに何かを用意しておこう。なるほど、こういった処世術で生きてきたのだな。そんな些か的外れな感心を抱くわたしは、その後その子が自宅に居着くようになることなど、知る由もなかった。


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突然の君の訪問。

8/29/2023, 9:09:56 AM