お題 涙の理由
誰かの、泣いている声がする。
どこからだろう。
しく...しく.........
ここだ。ここの部屋。階段をのぼって突き当たり、
2階の少し広い子供部屋。
3段ベッドと幾つかの勉強机。
そしてその片方の勉強机の下に1人の子供が蹲っている。
どうしたの?
......しく...しく...
返事は無い。
私に気づいていないのだろうか?
私が見えていないのだろうか?
今一度あたりを見渡せば大きな窓があるものの
すべて雨戸が閉まっていて階段にある電気が一筋だけ部屋に差し込んでいる。
そして薄暗い中でもわかる埃っぽさと床に散らばるおもちゃの山。
この子はなぜこんな部屋でひとりで泣いているのだろう。
しく......しく......
相変わらず泣いているその子に
大丈夫かと問うと
ゆっくりと顔を上げて私の顔を見るや否や
......い、.........なさい、
ごめんなさい...ごめんなさい.........
と両手で太ももを擦りながら謝り始めた。
よく見てみれば太ももには包帯が巻かれているが
それは掻きむしったように荒れていて血も滲んでいた。
顔は暗くてよく見えないがこのままでは傷が悪化してしまう。
太ももから手を離させないとと思い手を伸ばした時
はっとあることに気づいた。
この子は知らない子じゃない。
この子は過去の私だ。
それに気づいてから泣いている理由を考える時間など要らなかった。
私は過去大事な時に怪我をして
それでも諦めずに動き続けた結果、失敗し、
皆を負けに導いた。
皆の記憶には残っていないかもしれない。
負けたという事実すら、もう覚えていないかもしれない。
きっと誰も私のせいだとも思っていない。
でも私は自分を許せなかった。
この子は自分に、私に謝っているのだ。
でも許されないことに、許せないことに涙を流している。
泣きじゃくるこの子や傷だらけの足をみて居たら
気づいたら私が謝罪の言葉を零していた。
ごめんね...
傷だらけなのは足だけではないだろう。
私はあの時の私を許せていない。
そしてこの子も自分を許せていない。
そしてこれからも許せることは無いのかもしれない。
私はその子の隣で頭を撫でながら静かに涙を流した。
10/11/2024, 4:41:19 AM