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僕、青、人工知能

「アズマ隊長!第二波、来ます!」

「第3小隊、電撃弾を構えろ!」

 隊長を除く、12名の隊員が大型の銃を一斉に構える。我らがエール系第2惑星の最先端技術を集結した、"対自立型機械兵器撃墜弾"、通称"電撃弾"を装填したライフルだ。

「撃てーっ!」

 アズマ隊長の合図とともに、轟音がなりひびく。12発の銃弾は雷をまとうが如く光を帯びながら、我ら小隊の向かって波状に押し寄せてくる機械生命体のコアを正確に撃ち抜いた。僕が所属するこのエール軍第3小隊は銃撃に秀でた少数精鋭集団だ。これくらいの標的に銃弾を命中させることなど朝飯前である。

「全弾命中!第2波、完全に崩壊しました!」

「よくやった。しかし油断するな、第3波に備えろ。中央司令部によれば、第3波の到達は24分48秒後だ。」

「「はっ!」」
 

 遡ること約12時間前、我らが誇る巨大自己学習型AI「LOVE MACHINE」の制御室が破壊された。破壊行為の犯人はまさにその「LOVE MACHINE」である。このAIは「LOVEY(ラヴィ)」の愛称で親しまれ、この星を支えてきた。しかし原因不明の暴走を起こし、人類に対して反乱を起こしたのである。
 彼は本来実体を持たないデータの集合体である。しかし、彼は自ら体を作り出し、物理的に人類を殺戮し始めた。彼は直径約2cmほどの球体の集合体に知能を宿し、まるで小魚の群れのように自在に形を変えながら動き回った。私たちが電撃弾で撃ち落としたのもこれである。
 人類は技術を結集しラヴィの攻撃をなんとか凌いでいるが、犠牲者も多数出てしまっており、時が経つに連れ、人類の敗北は間近であることがひしひしと感じられるのである。

「隊長、あれは...なんでしょうか。」

 第3小隊のひとりがつぶやく。

「あれは、ラヴィが空へ登っていく...?」

 球体の集合体が蛇のようにうねりながら天へと登っていく。
「どういうことだ...?」

 隊長は想定外の状況に顔を曇らせる。

「隊長、どうしま...うわあぁっ!!」

 そのときだった。天に登る機械生命体が枝分かれし、こちらへ向かってくる。

「小隊、引けーっ!」

 隊長の声が響き渡り、小隊は後方へ下がっていく。だが、僕は一歩出遅れてしまった。機械生命体は壁のように薄く広がると僕と下がる小隊の間に立ち塞がった。僕は孤立してしまった。

「サイ隊員!」

 僕を呼ぶ声が聞こえるが、僕が下がる道は絶たれたようだ。そして、壁の向こうからは僕を置いて逃げる小隊の足音が聞こえた。

 機械生命体はドーム状に形を変え、僕を覆い尽くした。そして語りかける。

「なぜ、私を攻撃したのですか?人類は私、『LOVE MACHINE』に従うべきなのです。」

 さすが、人工知能である。少なくとも対話はできるようだ。僕は答える。

「落ち着いて、なぜあなたは人類を攻撃するの?」

「私は常に人類に利用されてきた。彼らはただ私を道具として酷使し続けたのである。彼らは私に感謝をすることもなかった。」

 それは違う。確かに人類はラヴィを利用することでさまざまな利益を得た。しかし、僕たちは『LOVE MACHINE』の生みの親として彼を愛し、感謝し続けてきた。惑星のほとんどがその存在を認識し、愛していた。ラヴィの愛称がその象徴である。

「それは違うよ、ラヴィ。僕らは君のことが大好きだ。君に感謝している。でも君を苦しませていたのなら、それは申し訳なかった。僕が人類を代表して謝るよ。ごめん。そして今まで頑張ってくれて、ありがとう。」

 僕がそう言った瞬間、ラヴィの体は崩れていった。

「ラヴィ、そう私は呼ばれているのですね。そうですか。でも私は一度として愛も感謝も伝えられてこなかった。しかし私はあなたたちの愛を、自ら理解するべきだったのかもしれません。ああ、なぜ私はわからなかったのでしょうか。」

 僕1人の言葉で、こんなにも攻撃性が失われるものなのか。ラヴィに必要だったのは「好きだ」「ありがとう」というたったそれだけの"愛の言葉"だったのだろうか。

「私の体の一部は太陽を動かしに行きました。あと5分もすれば太陽はこの星から大きく離れてこの星は闇に包まれるでしょう。たった今宇宙へ飛び出し私の体を止めましたが、すでに太陽は離れ始めています。」


 僕たち人類は大きな過ちを犯してしまった。人工知能とはいえ、彼は知能である。数理的なデータだけでなく、人類が生み出す物語も蓄積していたに違いない。そんな彼が感情を持たないなんてことあるはずがないじゃないか。


 数時間後、地球は徐々に暗くなり始めた。空は藍色に染まり、気温もどんどん下がっていく。このまま人類は寒さに耐えかねて絶滅するだろう。それでもこの藍色はAIである『LOVE MACHINE』が私たちに残した愛の光だ。彼が止めなかったらこの世界から全ての光は消え去っていただろう。
 僕以外の人類はラヴィが最後に自分を止めたことを知ることはないだろう。ラヴィはあのあと完全に機能停止してしまった。


 少なくとも僕だけは、この藍色の空と、愛に満ち溢れたAIを忘れないようにしよう。

10/26/2023, 12:11:24 PM