空が低い。
灰色の雲がうねうねと抜け落ちた動物の毛みたいに丸まって、低く重く垂れ込めている。多分一時間もしない内に雨になるのだろう。動けないのがもどかしく、窓辺にもたれてぼんやりと外を見つめる。
·····気まずい。
名前は知ってる。うちで一番強いって事も。あと、めちゃくちゃモテるって事も。でも、僕自身喋った事も無いし、そもそもあっちはあっちでお仲間がいる。
だから、今日はたまたま。たまたま組んで仕事に出たら、雨だわもう一人がはぐれたわで、ここで待機を命じられた。仕方なく二人でこうしているけれど、あちらさん、なーんにも喋らない。
この空と同じどんよりと重苦しい顔のまま、テーブルに片肘ついて黙り込んでいる。
「·····」
――絵になるな、と思った。
眉間に刻まれた縦皺も、僅かに伏せられた長い睫毛も、珍しい目の色も、確かに目を奪われる。めちゃくちゃモテる、ってのも納得だった。
多分、だけど。
僕はこの人に、あんまりよく思われていないのだろう。なんとなくそう思う。まぁ生きた世界が違うのだから当然なんだけど。でもそれだけじゃないんだろうな。
「コーヒーでも淹れよう」
ぼんやり外を眺めてたら、思いがけない言葉を掛けられた。
「·····オタク、出来るの?」
「君より上手いよ」
ぽかんと口を開けたまま、僕はキッチンに向かう後ろ姿を見つめる。
ぽつぽつと、雨が窓を打つ音が聞こえてきた。
気まずかった待機時間が、ほんの少し楽しくなってきた。
END
「物憂げな空」
2/25/2024, 11:54:23 AM