「君だけさ。信じてくれ」と嘯いて
頬に咲かせた立派な紅葉
「……って歌、どう?」
「秋の儚い感じが台無しだよ」
頬にそれはそれはお手本のような紅葉を咲かせた幼馴染が開口一番に告げたのがそれだ。軽薄な彼に相応しい様相に思わず溜め息が溢れてしまうのも仕方がない。
「ちぇー。ちゃんと季語も入れたんだけどなー」
「紅葉の綺麗で可愛い響きをここまで残念に表現できるその才能が羨ましいよ」
いじけた様子の彼が、その実さしていじけていないことも、付き合いの長い俺は知っている。長くても2ヶ月。恋人ができたって、軽薄な彼はすぐさま相手を怒らせてこのザマである。浮気をしている様子ではない。様子ではないが、あっちへこっちへフラフラとした気ままな彼は、どうにも長期の恋愛に向かないらしい。
秋の空は何とやらと言う。まあ確かに、秋の歌はこいつに相応しいのかもしれない。なんて思考が脳裏を過ぎったが。
無駄にポジティブな彼を喜ばせるのも癪なので、俺はそっと口を噤んだ。
テーマ「秋恋」
9/22/2024, 2:19:23 AM